21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第4回研究会

日時: 2004年12月18日
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 至誠館
タイトル: イスラームにおける人と人権
講師: 奥田 敦 (慶応義塾大学総合政策学部)
タイトル: インドネシアのイスラーム主義における「寛容性」と「排他性」
講師: 見市 建 (京都大学東南アジア研究所)
要旨:
奥田氏は、欧米の文脈と異なるイスラームに基づいた「人権」の性質について説明し、人が人であるという理由のみによって与えられる権利であり、福利の実現を目指すものであると述べた。さらにこの実現に関しては、1)宗教、2)生命、3)理性、4)子孫、5)財産の5つの必須事項が保全されるべきと言う。同氏はまた、イスラームにはこのような理解がありながらも、実際には人権をめぐる現実と理念の厳しい乖離が存在していると述べ、次に聖典や著名なイスラーム学者の言葉から引用しながら、「人権」守護の可能性について分析した。氏によれば、人権を守護することは基本的に神の手にあるのだが、「人間が労苦をしない限り神は何事も始めない」という点から鑑みて、人間もまた人権を守護することが可能であり必要とされていると言う。そしてまた、この「労苦」について一神教に独特の「ラッバーニーヤ(主に帰す)」の概念を紹介し、一神教という側面からの再考が求められていると主張し、発表をしめくくった。
見市氏は、「福祉正義党」の事例から現代インドネシアのイスラーム主義の寛容性と排他性について行った分析を報告した。氏によれば、同党は1970年代のインドネシア内の大学における学生運動に系譜を持っており、2004年選挙においては多数の議席を得るという躍進を見せている。モットーとして政治的声明というよりはイスラームによるインドネシア国民統一と清廉潔白を掲げ、穏やかな社会のイスラーム化を目指そうとしていること、そして堅固な組織構造を持つことやメディアによる広告、ポップカルチャー的イスラーム文化の拡大と市場を通じてこれを行うことにも積極的なことなどに、他のイスラーム政党との際立った相違点がある。
氏によれば、多文化社会のインドネシアにあって「寛容」とは、「多元的な統一を確保する」ことであるといい、対象として宗教だけでなく、民族間、世代間の差異、シオニズムへの考え方なども含まれるという。またこれらの対象は、「排他」についても同じことが言え、インドネシア社会の複雑な変化を反映している。1965年から政権についたスハルト大統領は、最初ゴルカルを強化するなどしてイスラーム諸政党を政治的に無力化するが、社会は反対にこのころから徐々に「イスラーム化」が再興したという。氏は、現在イスラーム政党は活発に活動しているが、全般的なイスラーム化が進んできた結果、イスラームかそうでないかということは二者択一的大きな問題点になることが少なくなっているとする。そして、ある程度の政治的な自由が確保されている現状においてイスラーム主義は、一部のテロ活動を行う少数の団体を除き、「福祉正義党」に見られるように、現実に対応するような形で広がっていくであろうという見通しを述べた。
富田氏からは、奥田氏のいう「人権」が誰の誰に対する権利かという質問があり、欧米文化との差異/類似を議論することが必要というコメントがされた。綱島氏からは、福祉正義党や、インドネシアのイスラーム主義の国境を越えた影響について質問が出された。
(COE研究指導員 中村明日香)

『2004年度 研究成果報告書』p.262-298より抜粋