21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第5回研究会

日時: 2005年1月22日(部門2と合同)
場所: 同志社大学 新町学舎 渓水館
タイトル: アメリカと東南アジア―テロとの戦争を中心として
講師: 白石 隆 (京都大学東南アジア研究所)
タイトル: アメリカの中東戦略の展望――冒険主義と思考停止の狭間で
講師: 田原 牧 (東京新聞特報部)
要旨:
本会は、1年半続いたCISMOR部門研究会の総括として部門1、2合同で開催された。発表者には、客員フェローである田原氏、またゲストスピーカーとして白石氏を招き、それぞれ中東、東南アジアとの関係からみた米国の政策について分析いただいた。
白石氏は、東南アジアを米国の対外政策におけるマージナルな部分と位置づけた上で、特徴として東南アジア地域の政治軍事的安定に重点が置かれていること、また東南アジアの重要度は時と状況によって変化すること、米国の軍事的インフラと目されていることを述べた。東南アジア地域内で最も重要視されるインドネシアでは、米国による警察支援などで対テロ対策に力を入れている。氏はまた、インドネシア内のイスラーム主義組織として「ジャマァ・イスラーミーヤ」を挙げた。イスラーム国家建設を目指すこの組織は、敵をジンに模してこれにジハードを挑み、数々のテロ事件に関与していると言われる。白石氏はインドネシアにおけるイスラーム主義の攻勢に関して、ネイション・ビルディングとの関連で分析する。国家の存在意義が国民に説得力を持っていない場合、また国家機構が機能していない場合などの「破綻国家」状況において、これらの状態に伴って起こる諸「正義」の衝突(それは時に宗教対立または民族対立などの形をとる)、既存の国家に替る絶対的「正義」と新国家への追求がイスラーム主義の根本に存在していると述べる。またこのようなことからも、インドネシアにおいてイスラーム国家を求めるイスラーム主義が権勢を極める可能性は少ないが、同国家の秩序と安定のために日米の果たせる役目は大きいと述べ発表を終った。
田原氏はまず、前日に就任演説を行ったばかりの第2期ブッシュ政権とその外交方針について、これまでの経緯からも内政重視であろうこと、また政府関係によるイスラーム主義やテロリズム、そして中東イスラーム世界に対する諸見解から考えて、同政権が「内向きの強行路線」をとっていくだろうという見解を示した。次に、イラク、パレスチナ、イラン、湾岸などの中東重要地域の情勢から見ても問題が山積であること、さらにアラブ民衆が米国のダブルスタンダードな「民主化」政策、自国政府の独裁体制、過激なイスラーム主義への恐怖と絶望などによって、「多重疎外状況」に追い込まれていると分析した。また、中東世界をめぐる現状として、米国政権内の「ネオコン」や宗教右派勢力の動向、アル=カーイダなどの過激イスラーム主義者の活動、親米的な中東諸国の苛立ちや、アラブ左派知識人たちの低迷などを概観し、米国、中東共に現在の方向修正がなされないままでは、外交の発展性には疑問が残ると結論づけた。
中山氏からは大統領主任演説は一般教書演説ともかね合わせて読む必要があること、石川氏からはサウジ政権に対する米国のダブルスタンダードの実情などに対してコメントがあった。また見市氏からは、イスラーム主義者は穏健化する可能性があるかどうか、などの質問が提起された。ディスカッションでは、反米的な自由、民主的勢力を米国は許容できるか、などをめぐって議論が行われた。
(COE研究指導員 中村明日香)

『2004年度 研究成果報告書』p.410-434より抜粋