21世紀COEプログラムによる活動記録

2007年度 第1回研究会

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  • 070519b
日時: 2007年5月19日(土) 13:00-17:45 (部門2と合同)
場所: 同志社大学 室町キャンパス 寒梅館6階会議室
タイトル: イスラーム革命、イラン・イスラーム共和国と米・イラン関係 ―問題の根本―
講師: 松永泰行(同志社大学一神教学際研究センター客員フェロー)
要旨:
イラン・イスラーム革命から現在に至る米国とイランの係争的関係の背景を読み解くことが、松永氏の発表の趣旨であった。
  米国側がイランに対し実効性の高い制裁措置を年々積み重ねている。米国のイランに対する制裁的措置の中で、とりわけインパクトの大きい例は、外交断絶(80年)、テロリスト支援国家リストへの追加(84年)、米企業による石油ガス部門への投資の禁止(95年)、対イラン金融制裁(06年)などである。その一方でイランは米国に対し、交渉しない、というスタンスを貫いている。ただし、二国間の間に外交的折衝が一切ないと見なすのは正しくない。例えば、債務上の懸案などは公式レベルで細かく調整された。
  イランの外交政策に関してイスラーム革命の輸出など復興主義的あるいはシーア派的な感情(利害)が多くの政治行動に影響を及ぼしているように見えるが、基本的にこれらはレトリックであって、現実の外交・安全保障の領域においては、極めて合理的な判断がなされている。また、国内の意思決定プロセスは制度化されており、最高指導者ハーメネイー師のガイドラインから逸脱できないシステムが完成されている。時折外交官の一部には、国是を無視して米国と交渉しようとする者がいる。ただし、ハーメネイー師が米国との無条件の関係改善を許す可能性はないので、こうした報道に惑わされるべきではない。
  米国のメディアは、イランに対してネガティブな報道を続けている。テレビでは根拠のない「イラン性悪説」が日々「イラン専門家」によって再生産されている。米大使館占領事件は未だにイランの悪しきイメージを形成しているが、実際にこの問題は法的には解決済なので、政策上の決定要因にはなっていない。ホロコースト否定に代表されるアフマディーネジャード大統領の放言は有名だが、彼は革命イデオロギーの産物であるポピュリスト政治家であるに過ぎず、イラン国家指導部の政策的コンセンサスからは懸け離れているので、注意が必要である。
  米国の対イラン政策提唱者の間では、ハト派とタカ派の区分が容易である。前者はアメとムチを使い分けることでイラン側の態度の軟化を期待するものであり、後者は出来る限り締め付けてイランの体制変革(転覆)を促そうとする立場である。だが米国が自らの政策的態度を根本的に改めない限り、いずれの方法を取ろうとも、イラン側の姿勢を変えることはできないだろう。
  シーア派聖職者の強力なネットワークを考慮すると、米国がテロ組織と見なすヒズブッラーとの関係をイランが絶縁することは不可能である。また、核燃料サイクル計画もイラン側から停止する理由は見当たらない。イスラエルに対する攻撃的な態度もディスコースのレベルに留まるものとして理解しなければならない。米国がこうした理由でイランに圧力を加え続ける限り、外交的な行き詰まりを解消することは不可能である。ペルシア湾沿岸地方における安全保障論に関して言えば、イラン側の姿勢はディフェンシブなものであり、野心的な意図も準備も全く見えてこない。
  最後に松永氏は、米国や日本のメディアはイランのイメージを現実的に報道する努力をすべきである、とのコメントを添えて発表を締めくくった。
(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 原田恭介)
『2007年度 研究成果報告書』p.16-39より抜粋