21世紀COEプログラムによる活動記録

2003年度 第1回研究会

日時: 2003年12月20日
場所: 同志社大学 東京オフィス
タイトル: アメリカ外交の歴史的潮流
講師: 村田晃嗣 (同志社大学大学院法学研究科)
タイトル: ブッシュ政権の軍事戦略
講師: 山口 昇 (陸上自衛隊研究本部)
要旨:

  本研究会において、村田晃嗣助教授と陸上自衛隊の山口昇氏は、それぞれの専門的観点から米国の外交・安全保障政策を論じた。
  まず、村田助教授は、ウォルター・ミードの分析に依拠しながら、歴史的に見て米国外交には4つの潮流(国内重視派のジェファソニアン、海外市場重視派のハミルトニアン、国益のためなら軍事力行使も辞さないジャクソニアン、米国の道義的優越性を唱えるウィルソニアン)が存在し、さらにそれらが交錯しあってきたことを強調するとともに、単純なネオコン外交論を批判した。
  ブッシュ政権は、ジャクソニアンを根底に他の3つの潮流が上部構造として存在している。そのことは、内外の要因によってブッシュ外交の「逆説」を生み出した。同盟国を軽視したクリントン政権を批判しながらも、9・11テロ以降、制度的な同盟重視路線からアドホックな「有志連合」へ重きを置くようになったこと、中国を「戦略的ライバル」と定義づけていたにもかかわらず米中協調へとシフトしたことが、その例として挙げられる。また、イラク占領統治のつまずきから、ネオコンが凋落しはじめたことは、米国が国際協調路線へ舵を切る兆候である。

  主権国家の枠組みから統合へ向かうヨーロッパとの外交関係の不手際と比較して、主権国家の枠組みが強い東アジアでは、ブッシュ外交は適合的であり、台頭著しい中国や核開発を放棄しない北朝鮮が存在するゆえ、日米同盟は不可欠である。したがって、この同盟関係を強固なものにするために専門家の対話をより活発にするなどの知的インフラの整備が望まれる、と村田助教授は結論づけた。

  山口氏は、在野時代の共和党の議論に着目しながら、ブッシュ政権の軍事戦略を論じた。現政権の安全保障政策にたずさわるプレーヤーの多く(パウエル、チェイニー、ラムズフェルドなど)は、ブッシュSr. あるいはフォード政権のもとで活躍しており、総じて実務能力に恵まれた現実主義者である。彼らは、クリントン政権下の共和党の議論に大きな役割を果たした。それはサイバーテロなどの非対称脅威への対処(本土防衛)の重要性を主張した国防委員会報告や、ミサイル防衛を促すラムズフェルド委員会報告となって結実した。

  ブッシュ政権成立後、これらの多くが実際の政策となった。ミサイル防衛促進のためのABM条約破棄、本土防衛や地域紛争への対応を謳ったQDR2001がそれである。ただ、(現時点で)前方展開戦略の見直しについては、「不安定の弧」に対応するグローバル戦略と海外基地との関連で検討している段階である。また、イラク戦争では、軍のディシジョン・サイクルの素早さや目標設定から破壊までの時間短縮といった米軍の迅速化がみられた。

  しかし、北朝鮮問題など、ブッシュ政権にも多くの課題がある。こうした課題や上述した米軍の戦略について日米間の対話が必要である、と山口氏は結んだ。
(CISMOR奨励研究員・法学研究科後期課程 小出輝明)

『2003年度 研究成果報告書』p.169-191より抜粋