21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第3回研究会

日時: 2004年10月2日
場所: 同志社大学 室町キャンパス 寒梅館
タイトル: パレスチナ・アイデンティティと政治
講師: 北澤義之 (京都産業大学外国語学部)
タイトル: 現代ユダヤ教とイスラエル・パレスチナ問題
講師: 勝又直也 (京都大学大学院人間・環境学研究科)
要旨:
今回は第1回研究会に引き続き「イスラエルとパレスチナ」に焦点をあてて、研究会を行った。北澤氏は、まず自らの研究とTelhamyらの議論(Telhamy, Shibley&Barnett, Michael N. (eds.) 2001 Identity and Foreign Policy in the Middle East, Ithaca: Cornell Univ. Press)をふまえ、中東域内外の政治とパレスチナの人々のアイデンティティ形成との間に相互作用があると述べた。次に、パレスチナ人アイデンティティ形成に影響を与える契機となる歴史的事象を列挙していき、その環境としての、彼らをとりまく現在の居住地の状況を述べ、最後にハマースとパレスチナ人アイデンティティの関係についても言及し、政治的状況とアイデンティティが密接な関係を持つ可能性を指摘した。北澤氏はまた、アイデンティティをどう定義するか、そしてまた、「パレスチナ人」とひとくくりにする危険性を告発して発表をしめくくった。
勝又氏は、現イスラエル国家の中で「宗教派」とよばれる人たちは約20%の割合を占めるに過ぎないが、彼らはイスラエル国家の中にあって宗教的には少なからず影響力を持ち、この日の発表は主にこの宗教派に関するものであると断わった後、背景となるユダヤ教諸派の説明から始めた。次に、パレスチナ問題を論ずる上では重要な「エレツ・イスラエル(イスラエルの地)」の概念に触れ、この用語は宗教派に戒律を与えるハラハー(律法)に登場するが、解釈については多くの議論があると述べた。氏によれば、伝統的ユダヤ教においては、Galut(異郷生活)とGe?ula(救済)という二つの概念、つまりユダヤ人はディアスポラによるGalutの状態にあって終末と共にくるGe?ulaを待つ状況にあり、これによって自らのアイデンティティを規定することが多かったという実状があり、「エレツ・イスラエル」に対し恐れの感情が強かった。現在に至っても正統派の中で、イスラエル国家、パレスチナ問題に関連するこの用語の解釈をめぐって統一されているとは言い難い状況があり、彼らが宗派としてパレスチナ問題に与える影響については疑問が残ると結論づけた。
コメンテーターの宮坂氏からは、パレスチナ人アイデンティティとイスラエル、他アラブ諸国との関係、インティファーダの影響などについて質問があった。田原氏からは、改宗法やメシア的シオニズムの思考に関する質問や、パレスチナ人の集団的アイデンティティの所存への疑問などのコメントが出された。また他に「パレスチナ人」をイスラエルとの関係のみで分析するのは、彼らのメンタリティやアイデンティティをイスラエル人のそれの裏返しに見ることになる危険性が指摘され、パレスチナやシオニズムに関して白熱した議論が展開された。
(COE研究指導員 中村明日香)

『2004年度 研究成果報告書』p.356-381より抜粋