21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第1回研究会

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日時: 2005年5月21日
場所: 同志社大学 東京オフィス
タイトル: 共和党保守連合と宗教保守派の関係について
講師: 久保 文明 (東京大学法学部教授)
タイトル: 第二期ブッシュ政権の陣容と日米関係
講師: 村田 晃嗣 (同志社大学大学院法学研究科教授)
要旨:
  本研究会において東京大学久保文明教授と同志社大学村田晃嗣教授の報告により活発な議論が行われた。
  久保教授は共和党の保守連合と宗教保守派の関係について詳細に論じ、現在の保守連合を理解するにおいて宗教というファクターの重要性を指摘した。米国の保守主義は諸潮流から成り、保守内でも原理原則上の差異があり、またハイアラーキカルや大きな政府を特徴とする欧州の保守とは異なる。そこで鍵となるのが宗教と政治の関係である。共和党と宗教保守の同盟関係は、共和党が選挙の支持基盤拡大の為宗教勢力を取り込んだことから始まる。宗教保守の中にも様々な団体が含まれているが、イシューが政治的になればなるほど、宗教保守派の間でも宗派の壁を越えて多数派を形成することが指摘された。この保守連合には多数の争点が存在し、それは保守連合内での緊張を生み出すこともある。そのような争点をめぐる駆け引きは2004年度の選挙にも作用し、ブッシュ再選において同性愛がウィニング・イシューとなったと久保教授は纏めた。
  村田教授は二期目ブッシュ政権のセキュリティ・チーム(国務省、国防総省、NSC)の変化と外交戦略を前期と比較検討した。セキュリティ・チームの変化においては政権がタカ派化したとの議論に疑問を呈し、パウエル前国務長官の役割に対する評価の再解釈を促した。また、P・ウォルフォビッツ(前国防副長官)の世銀総裁就任、J・ボルトン(前国務次官)の国連大使就任は非効率な国際機構の改革にむけた意思表明であり、後者は特に北朝鮮問題への牽制を北京・平壌・ソウルに示すものであるとする。一方で二期目の外交政策では「先制攻撃」「民主主義の拡大」「単独主義」を挙げている。「先制攻撃」においては、イラク戦争は米国の「弱さ」を見せたものであり、近いうちに同規模の戦争は起こせず、実質的に後退すると見る。「民主主義の拡大」ではブッシュのラトビアでの演説を引き、ブッシュ政権の外交路線のウィルソン的なものへの移行(注1)を指摘し、大きな後退は無いとする。「単独主義」ではブッシュの二度の欧州訪問から、その理念は残るが方法は慎重になるのではないかと分析した。
  また日米問題への影響として三点挙げ、一つに米軍の世界大の編成(GDPR)(注2)における普天間基地移転の問題、二つに日本で憲法改正が行われたが国連改革の問題が進まない場合の日本世論の問題、最後に中国問題を論じている。中国問題に際してトマス・バーネットの議論(世界をファンクショニング・コアとノン・インテグレーティング・ギャップに分割して理解する議論)を引用し、中国を脅威と評価するかどうかが日本への影響を左右するとみる。また、最近の日本・中国・韓国・米国においてナショナリズムが問題として重要であることを、村田教授は最後に付言した。
(注1)    従来の勢力圏や大国間の均衡を是としチャーチル、スターリンとヤルタ会談を結んだルーズベルトの外交路線から、それらを否定するウィルソン的な外交政策への変化を指す。村田は著書で「ウィルソニアンは、民主主義的な理念を世界に押し広めることこそ、アメリカの使命でなければならない、と考える。」と書いている。
(注2)    本公演においてはGDRと述べられている。Global Defense Posture Reviewの略。
(法学研究科博士前期課程 小橋川唯之)

当日配布のレジュメ

『2005年度 研究成果報告書』p.308-333より抜粋