21世紀COEプログラムによる活動記録

2006年度 第1回研究会

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  • 060520b
日時: 2006年5月20日(土) 14:00-17:30
場所: 同志社大学 室町キャンパス 寒梅館6階大会議室
タイトル: 米軍のトランスフォーメーション―アメリカの軍事戦略は変わったか
講師: 山口 昇氏(防衛庁防衛研究所副所長(陸将補))
要旨:
  2006年2月、4年ごとに提出を義務づけられているQDRという報告がアメリカで出された。日本でいえば「防衛計画大綱」と「中期防衛力整備計画」を合わせたものである。
  そこに流れている一貫したテーマは「継続する変革」ということであった。変革にゴールはない、ということである。そして、テロとの戦いを「長い戦い」と規定した。これは、「戦争が泥沼化するだろう」という意味ではなく、「戦略をもって長い戦いを勝ち抜くぞ」という意識を表しているといえよう。また、そうした戦いのために、これまでと違って「国内外のパートナーとの協力」を重視するようになってきている。
  今回のQDRでは、「四つの課題と重点分野」ということが示されていた。これは、アメリカがいまだに冷戦時代における「伝統型」の兵力整備から脱却しておらず、現在の「非正規型」「破滅型」「混乱型」といった危機に対応できていない、ということを問題としたものである。
  「国防の変革」は以前から取り組まれていたが、ブッシュ政権が成立してからは、ラムズフェルド国防長官によって見直しが進められている。特に陸軍では、日系人初の陸軍大将であるシンセキ氏が参謀長となり、指揮統制組織のモジュール化などに着手した。
  「米軍再編」についての基本的な考え方は「地球規模での態勢の見直し」ということである。例えば、一方で冷戦型の兵力を本土に帰還させ、他方で柔軟かつ迅速に展開できる兵力を世界中の戦略地点に配備する、というように「今後10年間で、より機敏で柔軟な軍を展開する」としている。こうした米軍再編の背景には、冷戦時代のように「在欧米軍であれば欧州を、太平洋軍は太平洋を守っていればよい」という時代は終わった、という認識がある。
  今年2月の「2+2共同声明」でも、日米同盟における共通の戦略目標には、地球規模のものと地域レベルのものがある、ということが強調されていた。例えば、地球規模では「テロの防止・根絶」であり、地域レベルでは「朝鮮半島の平和的な統一を支持する」といったことである。そして5月に、在日米軍の再編に関する具体的なロードマップが合意された。今年のうちから様々なことが始まって、例えば、沖縄の人口密集地にある米軍の施設はほぼ全て返還されることになり、また厚木にある空母航空団は岩国に移されることになる。
  ガイドラインについていえば、97年に見直されたままで、今では少々サビついていると言わざるをえない。これについては賛否両論があるが、周辺事態についてもさることながら、災害救援や復興支援についても計画を進めたらよいのではないか。どれから手をつけたらいいのかということは、今、決めなければいけないことだと思われる。
(CISMOR奨励研究員・京都大学人間・環境学研究科博士後期課程 藤本龍児)

『2006年度 研究成果報告書』p.190-201より抜粋