21世紀COEプログラムによる活動記録

2006年度 第2回研究会

  • 060722a
  • 060722b
日時: 2006年7月22日(土) 13:00-17:00
場所: 同志社大学 東京オフィス
タイトル: 米国の大量破壊兵器不拡散戦略とイランの核開発問題
講師: 石川 卓(東洋英和女学院大学国際社会学部助教授)
要旨:
  90年代のアメリカの不拡散戦略の特徴は、大量破壊兵器(WMD)の拡散が進行中という前提の下、場合によっては軍事的手段を使ってでも、これに対処するという「拡散対抗」を打ち出したことであった。他方で、多国間枠組みの強化によって拡散の違法性をより明確化し、軍事的手段の正当性確保にも努めた。そうすることで、不拡散体制の強制的な性格を強化し、不拡散戦略の実効性を高めてきたのである。
  現ブッシュ政権は、そうした90年代以来の不拡散戦略の傾向をエスカレートさせてきた。特に9・11事件以降は、「ならず者国家」を媒介としたテロ組織とWMDとのつながりを強調し、不拡散戦略の強制的な性格をさらに強化してきた。
  その到達点でもあったイラク戦争は、不拡散という規範を逸脱する者に対してはある程度の威嚇効果をもったと言えよう。しかし同時に、武力を背景とした不拡散政策には限界がある、ということをアメリカに認識させることにもなった。国際社会においても、アメリカのやり方に対しては根強い不満があり、現在では、より多国間枠組みを重視せざるをえなくなっている。また、イラク戦争後には、テロ組織など、非国家レベルにおける拡散を「ならず者国家」脅威とは区別し、これにより注意を向けるようになった、とも言えよう。
  その結果、アメリカの政策は、現実主義への傾斜を示すようになっている。イランの核開発問題へのブッシュ政権の対応にも、それは示されている。イランとの直接交渉の回避、濃縮・再処理をイランに認めないという姿勢は一貫しているが、EUやロシアによるイランとの交渉を従前以上に支持するようになっている。しかし、最終手段としての武力行使の可能性が低下している現状では、北朝鮮の核問題と同様、イランの核開発問題が長期化することも、ある程度はやむをえない。その意味では、現実主義への傾斜の是非は容易には判断できないとも言える。また、それは限定的なものにすぎず、イランの反応や北朝鮮核問題の動向次第で反転する可能性も十分にあるものと考えられる。
(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 高尾賢一郎)

『2006年度 研究成果報告書』p.202-223より抜粋