21世紀COEプログラムによる活動記録

2007年度 第1回研究会

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  • 070616b
日時: 2007年6月16日(土) 14:00-17:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 至誠館3階会議室
タイトル: <日本の宗教学>再考 ―近代日本の宗教経験―
講師: 磯前順一(国際日本文化研究センター准教授)
要旨:
  磯前氏は、日本宗教学の歴史を辿ることを通して、近代日本における「宗教」概念の社会的位相を考察した。
  これまで日本の宗教学は、各大学の宗教学講座の歴史を扱った試みなどが若干あるものの、自らの歴史の全体像を叙述することは殆どなかった。この理由としては、宗教学という学問のもつ二重構造を指摘することができる。-つまり宗教学は、宗教の固有性という理念と、そこに集まった諸宗教の具体的研究、という両者の往還過程の総体であり、それゆえに一枚岩な言説とは程遠いものであった。このために宗教学の全体像は、学会内外の研究者から極めて見えにくいものとなってきた。
  しかし、こうした日本宗教学史を叙述する試みの低調さの原因は、宗教学という学問の抱える言説構造のみならず、叙述形式が学問史ではなく学説史であることにも求められる。従来の日本宗教学史の叙述は、宗教学内部の学説のみを検証するもので、宗教学という言説の枠組みを自明とする学説史であった。しかし、戦後の変転する社会状況に宗教学が応えるには、時代状況との関係から宗教学をめぐる言説布置の変化を読み解く作業が必要である。その意味で宗教学史の叙述形式として求められているのは、学説史ではなく、日本社会の中における宗教学および宗教概念自体の位相を言説編成上の問題として明らかにする学問史である。
  1995年に起きたオウム真理教事件は、これまでの宗教学の宗教理解がもつ根本的な欠点を顕在化させた。それは、宗教学が黎明期から保持してきた、宗教の固有性を主題化する際の宗教的体験の重視という志向性である。この欠点を埋める試みとして、1990年代の後半に宗教概念論が登場する。宗教概念論は、宗教学の言説を歴史的、政治的文脈との関連で論じることで、日本の近代化過程の問題として宗教学を研究対象に捉え直した。その結果、宗教学は歴史的産物として認識されるとともに、それがもつ政治性の問題が浮上することとなった。
  日本の宗教学は今後、宗教概念のプロテスタンティズム中心主義や宗教学の政治性といった批判を踏まえた上で、従来の宗教概念とは異なるところで信仰世界を語りなおす試みが求められている。そうすることにより日本の宗教学史は、近代日本の西洋体験のあり方をめぐる考察へと開いていくことが可能となる。磯前氏はそのように今後の課題と展望を示して発表を締めくくった。
(CISMOR奨励研究員・総合研究大学院大学文化科学研究科博士後期課程 小河久志)

『2007年度 研究成果報告書』p.133-160より抜粋