21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第3回研究会

日時: 2005年3月3日
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館
タイトル: 反セム主義:その歴史的背景とヨーロッパにおける現状
講師: ドロン・B・コヘン (同志社大学神学部嘱託講師)
要旨:
 「反セム主義」(Anti-Semitism)とは近代に入って生まれた用語である。しかし、そこに反映されているのは、ユダヤ人に対する憎悪という古くからの現象で、この憎悪は他の民族に対して「普通に」向けられる感情を超えており、神学的、または人種的な論拠に基づいてユダヤ人の生存権すら否定しようとするものである。本発表ではまず、反セム主義のルーツを確認し、キリスト教世界とイスラーム世界における数例を取り上げて手短に紹介し、続いて今日のヨーロッパにおける状況を概観する。
その起源
  ユダヤ人の起源は古い。しかし、反ユダヤ的感情が表れてくるのはヘレニズム時代からである。当時としては異質な唯一絶対神信仰をもつことから、ギリシャ的ではなかったのである。そのような感情が歴史上初めて表れたのは紀元前2世紀の時代で、ギリシャの一般的な宗教行事への参加を拒むことから、ヘレニズムの拡大にとって邪魔な存在だと見なされたのである。
キリスト教世界において   キリスト教世界におけるユダヤ人の境遇は劣悪なものであった。キリスト教がローマ帝国の国教になると反ユダヤ的法律が施行され、中世においてもいくつかの国々でユダヤ人は国外追放されている。18世紀の啓蒙主義時代になるとようやく変化がみられ、それが19世紀における「ユダヤ人の解放」となった。またその一方で、新しい「反セム主義」が誕生し、ドレフェス事件などを契機としてシオニズム運動へと向かうことになり、人種差別的反セム主義の台頭は、最終的にナチスドイツによるホロコーストという最悪の結果となる。
イスラーム世界において   クルアーンにもユダヤ人を非難する記述は含まれているものの、キリスト教徒と同様に「経典の民」という特別な地位が与えられている。また、キリスト教世界ほどユダヤ人が嫌われるということもなかった。しかし近代においては、ユダヤ人への態度は徐々に変化し、ヨーロッパにおける反セム主義が飛び火する形でアラブ世界にも波及していった。
ヨーロッパにおける現状   現在、ユダヤ人は約1300万人おり、そのうち約100万人がヨーロッパに在住している。残念ながら反セム主義的事件は、ホロコースト以後も起こり続けてはいるものの、また一方で和解に向けた努力もなされている。また、イスラエルの問題と反セム主義との混乱が生じてもいる。近年ではヨーロッパ在住のムスリムにおいて反ユダヤ主義が多いとの報告もなされている。その中でも、ユダヤ人とムスリムとのよりよい共存に向けての努力もなされている。このような多くの努力によってのみ、新たな平和的共存の時代が訪れるであろう。
(同志社大学大学院神学研究科博士後期課程 横田徹)

『2004年度 研究成果報告書』p.460-473より抜粋