21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第2回研究会

日時: 2005年11月22日(火) 13:00-15:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 寧静館402
タイトル: 「宗教者が眺めた20世紀初めのヨーロッパの崩壊―ローゼンツヴァイク 『救済の星』を中心として―」
講師: ミシェル・モール(同志社大学嘱託講師)
要旨:
 モール氏はまず、「ヨーロッパとは何か」ということに触れ、現在のヨーロッパにおけるEU拡大とアイデンティティの問題を提起した。氏は、EUが拡大と共存への高邁な理想を掲げる一方で、根深く残る国家・民族への執着、そしてそこから生起する諸問題が、19世紀末から20世紀初頭に覇権を争った国民国家の闘争と無縁ではない点を指摘し、その時代の証人としてフランツ・ローゼンツヴァイクの視点を提示した。
  ローゼンツヴァイクの生きた時代のドイツは戦争の渦中にあった。当時のドイツは、「中央ヨーロッパは世界の中心である」という自負を持っていたが、その反面、「ヨーロッパとは異なっている」という意識も有していた。ローゼンツヴァイク自身はこの「戦争体験」から思想的影響を受けたことを否定する。しかし、ローゼンツヴァイクの「書簡」から読み取ることができる、「歴史」から「宗教」への移行という問題意識の中に、この時代の影が色濃く反映しているということをモール氏は指摘する。ローゼンツヴァイクにとって、「宗教」とはまさにユダヤ教のことであり、彼はユダヤ教において「歴史」の超越を問題にするのである。
  ユダヤ教における「歴史」の超越の問題を書物の形で書き著したものが主著『救済の星』である。戦時中に前線から母に送った書簡をまとめたこの著作は、脚注もない特異な書物である。モール氏は
「Erlosung」=「救済」の邦訳と定義に言及した後、この書の主題を三つに分けて論ずる。①哲学と神学の協力。一般に言われる宗教哲学とは一線を画した、宗教による哲学との共闘を目指したという点が指摘できる。②「死」と「生」の観点から「観念論=全体主義」を批判している点。この点においてローゼンツヴァイクは実存主義者の系譜に属するとされる。③自国への「同化」と「シオニズム」の問題。彼の師でもあるユダヤ人思想家ヘルマン・コーヘンの「同化」に対する反対の立場が言及される。
  以上の問題を概括した後に、モール氏は今回の発表に基づいて三つの課題を提起した。①「歴史」との戦いというローゼンツヴァイクの立場について。もし彼がナチズムを経験していたらという可能性を考慮に入れながら、彼の政治的な立場の独自性が語られた。②ユダヤ教とキリスト教以外の宗教に対するローゼンツヴァイクの立場。今日の宗教間対話の現状における彼の思想の独自性と限界が提起された。③言葉を超えた真理の追求というローゼンツヴァイクの思想的立場について。学問的な営みの限界と終末思想に基づく彼の思想の特異な側面が指摘された。
(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 森山 徹)