21世紀COEプログラムによる活動記録

2007年度 第1回研究会

日時: 2007年6月6日(水) 13:00-15:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館 CISMOR会議室
タイトル: 「ホロコーストとキリスト教 ―R・R・リューサーとJ・モルトマンの応答―」
講師: 森山 徹(同志社大学大学院神学研究科博士後期課程)
要旨:
  発表者の課題は、次のようなものである。それは、ホロコーストが過去の出来事として解決されずに、現在もなお様々な場において問題を引き起こしているのではないか。また、キリスト教(教会)は、現在もなお直接的に、このようなホロコーストの問題に関わっているのではないか。それだけでなく、このようにホロコーストの問題に関わる中で、更なる別の問題を引き起こしているのではないか。
  これらの問いをめぐって、まずⅠ章では、ドイツ告白教会、オランダ改革派、カトリック教会が戦後に発した声明を、ホロコーストとユダヤ人に対する言及に焦点を当てて概観した。そこで、戦後のこれらのキリスト教会が、ホロコーストとユダヤ人の関係に関して問題にしてきたことは、キリスト教自身の反ユダヤ主義的な伝統であった、という点を確認した。次にⅡ章では、キリスト教の動向とは離れ、現在のホロコーストに関わる諸問題として、ホロコースト否定論(あるいは修正主義)と、ホロコーストの政治的利用に対する諸批判の問題を見た。そこではまず、ホロコーストおよび反ユダヤ主義の歴史が、とりわけ、欧米/イスラエル=パレスチナ/中東間の問題で、すぐれて否定的に機能しているということを確認した。そして、ホロコースト否定論者に対する一部の研究者と、欧米諸国の極度に否定的な対応が、彼ら自身の目的・意図に反して、上述した反ユダヤ主義の否定的機能に拍車をかけているのではないか、という指摘をした。そしてⅢ 章では、「現在のホロコーストに関わる問題」に、キリスト教がどのようなかたちで関わっているのかを明らかにするために、イスラエル/パレスチナ在住でパレスチナ人クリスチャンであるミトリ・ラヘブとリア・アブ・エル・アサールの二人の証言を参照した。二人の証言が指摘した問題は、次の二つであった。一つ目は、ヨーロッパ諸国、とりわけドイツ人が、先の大戦によるユダヤ人迫害の反省にのみ力点を置きすぎたため、イスラエル人/政府とパレスチナ人/政府の関係を見落としている、という点である。二つ目は、ヨーロッパ諸国のキリスト教徒が、自らの反ユダヤ主義とその歴史に基づいて、イスラエル人とパレスチナ人の関係を判断することにより、中東のキリスト者に対して全く転倒した理解を持つに至った、という点である。そしてこれらの問題が、パレスチナ/中東の問題に、とりわけ中東のキリスト教徒の存在に、否定的に作用しているという点において、二章で取り上げた「現在のホロコーストに関わる諸問題」と、相似的な構造を有しているということを指摘した。最後にⅣ章では、Ⅲで現われたキリスト教の諸問題に対して、リューサーとモルトマンの応答を考察した。まずリューサーは、欧米のイスラエル政策を後押ししているディアスポラのユダヤ人共同体の不安に対する、キリスト教徒の責任を明らかにする。そしてモルトマンは、このキリスト教徒のユダヤ人受容の問題の根幹に横たわる伝統的なキリスト論を、イスラエルのメシア的希望によって再構築しようとする。これによって、教会は自らの途上的、未完的、暫定的性格を確保し、ユダヤ人を始めとする他の宗教や信念をもつ共同体と、共生する可能性を開示しようとする。
  質疑応答では、リューサーとモルトマンによる反ユダヤ主義理解や、克服の仕方の問題について、またアメリカや欧米のキリスト教徒による中東への関わり方について、活発な議論がなされた。
(同志社大学大学院神学研究科博士後期課程 森山 徹)