21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第4回研究会

日時: 2004年7月2日
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館
タイトル: 「イラン国家選挙結果からみたイラン・イスラーム体制の現状と将来」
「イラン改革派敗退とブッシュ政権の大罪」
講師: 松永泰行 (同志社大学CISMOR客員フェロー、ニューヨーク大学)
要旨:

  2004 年7月2日同志社大学CISMOR会議室において、7月の「イラン・イスラーム体制における西欧理解」研究会が行われた。この日の発表者は松永泰行氏で、前半部は「イラン国家選挙結果からみたイラン・イスラーム体制の現状と将来」という発表題で主にイラン内政について、後半部は「イラン改革派敗退とブッシュ政権の大罪」とし、イラン内政に大きな影響をおよぼすアメリカの対中東外交について発題していただいた。
  前半の発表において松永氏は今回の選挙結果について触れ、保守派が大勝利を収め、改革派が敗退したのは1つの事実であるが、より注目すべきはそのプロセスの方にあると述べた。松永氏によれば、このプロセス分析において、2つの点が浮かびあがってくるという。第1に、保守派は勝利しているが実質の獲得票数は多くない。また、資格審査で残った改革派からも他の改革派系別組織の候補者からも当選者がごく少数しか出ていないという事実から、有権者は「保守派の勝利を黙認していた」ことになり、これは「懲罰的投票行動」であると分析する。また、第2に保守派の獲得票の少なさと、特に都市部における投票率の低さから、保守派は結果的には国会で大半の議席を占めることは可能でも、社会をコントロールする力はないという推測ができるという。これらのこととイラン国民のプラグマティックなパーソナリティを考え合わせると、今回の選挙について人々は支持を改革派から保守派に移行させたとは言い難く、保守派がどこまで経済を立て直せるか、ということを考え静観しているのだという。
  後半部において松永氏は、今回の選挙およびイラン内政全般に深刻な影響を及ぼしているアメリカとブッシュ政権の対イラン政策における問題点をあげた。第1は、アメリカが占領者ではなく「解放者として」中東政策を実施していくと主張していることである。同氏によれば、これは中東地域における西欧の植民地支配の際にも用いられた言説であって、このことを考慮すれば、仮に大義名分は必要だとしても中東の人々を刺激しないような用語は他に可能なはずとする。第2には、アメリカの中東民主化構想は、当該中東諸国のニーズに基づくものでなく、あくまでもアメリカ自らの安全保障上の利害が優先することである。アメリカは以前からイランの民主化の必要性を主張して、イスラーム共和体制を非難し続けた。革命から20年が経過し、ある程度の民主化を進めようとしたハータミー大統領に対しては、クリントン政権では歩みよりを見せ、ブッシュ政権では「切り捨てる」という態度に出た。2回の大統領選挙を圧倒的多数で勝ち取って当選した国家首席に対して、アメリカは支持を止め、これからは国民に直接働きかけるという。このように、アメリカの中東民主化構想は、ダブルスタンダードであることに重大な問題がある。第3には、アメリカが「自由」や「民主化」などに、普遍的価値を見出していることである。松永氏は、G8サミットのパートナーシップに「人間の尊厳、自由、民主主義、法の支配、経済的な機会、社会正義は、普遍的な願望で」あると前提していることからも、アメリカの文脈では、特にヨーロッパ的価値観を中東に押し付けているのではなく、それは皆が求めるものであると想定し、移転されたか否かは無関係なのだという。しかし、実際のところ、「自由」や「民主化」など誰もが欲するとされるものの具体的内容は、主体者が自分たちの経験や文化に基づいて構築しなければ意味を持たず、このようなものは、経験であって外から移転されるものではない。松永氏は、上記を無視している中東民主化構想は、機能しないだけでなく、問題が存在する、松永氏は主張する。
  この後、研究会は質疑応答、ディスカッションに進んだが、議題はアメリカの中東外交、イスラエルとの関係、アメリカの持つ文化性といった広範囲におよび、中東研究者、アメリカ研究者相互にとって意義深いものとなった。
(COE研究指導員 中村明日香)

『2004年度 研究成果報告書』p484-492より抜粋