21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第7回研究会

日時: 2005年12月3日(土) 14:00-16:30
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館
タイトル: 吉村慎太郎『イラン・イスラーム体制とは何か:革命・戦争・改革の歴史から』(2005年、書肆心水)
講師: 富田 健次 (同志社大学大学院神学研究科教授)
タイトル: イラン・アフガニスタン「関係」史に関する試論―1901-1941を中心に
講師: 吉村慎太郎(広島大学総合科学部助教授)
要旨:

 今研究会では2005年10月に出版された吉村氏の著作を富田氏が書評した後、吉村氏から同研究書に補足することも含め、イランと隣国アフガニスタンとの近代史を比較分析した。
  富田氏はまず吉村氏の著作を概括した後、1978年革命以降現代イラン関連ではジャーナリスティックな本が多く出版される中、一次資料や原典を用いてイラン近現代史を分析した貴重な一冊と位置づけた。中でも、第1部で克明に説明されるパフラヴィー王朝の脆弱性と、第3部でのホメイニー内政の基本姿勢に関する分析は緻密かつ明晰であり、第2部におけるイラン・イラク戦争の経緯についても、歴史的背景、領土、内政、その他世界的国際事情などあらゆる方面からの分析を試みており高く評価できるとした。その上で、問題点として(1)イランのイスラーム体制を見る視点(2)イ・イ戦争とジハードの関連、(3)各政治勢力とアフマディネジャード新大統領の立場との関係などを提起した。富田氏によれば、(1)は、イラン近現代史研究ではしばしば指摘されてきたように、イラン国民の価値観を踏まえた視点の必要性、現代政治学的手法のみの有効性の問題と関係し、(2)は、「ジハード言説」の分析の問題であり、ファトワーとしての「ジハード」と「ジハード的戦争」に関する問題である。また、(3)は新大統領の政策的方向にも関連しているとした。(1)-(3)がイラン研究全般にも至る問題であったため、質疑応答におい、吉村氏はもちろん参加者全員での議論も行なった。
  吉村氏からは、アフガニスタンとイランの近代史比較研究について報告があった。同氏は最初に、二国を比較することによって、アフガニスタンの特異性や問題点などがより鮮明に浮かび上がってくること、また同国をイランの「後進国」ではなく、「近代化」のいくつかの視点では「先進国」とも位置づけ、その意味ではイラン研究にも有益であることを述べた。
  同氏によれば、19世紀末の両国の状況をみると、英露の脅威、部族社会の残存という共通性があり、対照的な点としてイランにおいてはカージャール朝末期の動揺、アフガニスタンにおいては強力な中央集権化による安定がみられる。その後20世紀初頭には、英露協商の影響、民族運動の挫折など共通の時代背景が見られ、第一次世界大戦後は、それが対英従属からの脱却という「民族」的課題になっていく。戦後成立した新政権は「近代化」という共通課題に対し上からの「近代化」を推進するが、「開明」的国王アマヌッラーと独裁的なレザー・シャーの政策の差異は、両者をとりまく軍部や宗教勢力など他要因の違いもあり、まったく異なる結果を生じさせることになった。さらに第二次世界大戦後は、冷戦と両国の地理的事情が、イランでは米国支持を受けた独裁政権が確立し、アフガニスタンでは支配層内部の権力闘争から社会主義政権成立そしてソ連軍の占領という道をたどらせることになる。吉村氏は、二国の一見異なる歴史展開には、より広い国際社会をアクターとして併せて見ると緊密な関連性があり、その解明はさらなる研究の必要があると主張し、発表をしめくくった。
(COE研究指導員 中村明日香)