21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第2回研究会

日時: 2005年11月8日
場所: 国立民族学博物館
【第一部】「1996年の和平協定以後のフィリピン南部における展望と課題」
タイトル: 「周辺から主流へ:ARMM(ムスリム・ミンダナオ自治区)の和平プロセスにおけるモロ民族女性の役割」
講師: ルファ・カゴコ・グイアム( ミンダナオ国立大学 )
【第二部】「東南アジアにおけるイスラーム研究とイスラーム運動」
タイトル: 「イスラーム団体の多様性:インドネシア解放党と東南アジアにおけるイスラーム諸団体の比較研究」
講師: ムハンマド・イスマイル・ユサント ( ヒズブ・タハリール・インドネシア )
タイトル: 「東南アジアにおけるイスラーム:一つのミッションにおける多様なビジョン」
講師: ソヒリン・ムハンマド・ソリヒン (マレーシア国際イスラーム大学)
要旨:
  本研究会は二部構成で、前半はフィリピン南部の和平協定をめぐる状況、広範はインドネシアを中心としたイスラーム運動についての発表が行われた。
ミンダナオ国立大学のルファ・カゴコ・グイアム氏は「周辺から主流へ:ARMM(ムスリム・ミンダナオ自治区)の和平プロセスにおけるモロ民族女性の役割」と題し、1996年に政府との和平合意を締結したMNLF(モロ民族解放戦線)における女性の役割について発表した。紛争時においては女性がザカート(喜捨)の回収、武器輸送、国軍の配置などについてのスパイ、死傷した兵士の収容などを行った。女性は国軍にあまり警戒されないので、例えば、魚を入れたバスケットの奥に武器や弾薬を詰めて国軍の検問所を突破した。和平合意後は、和平や開発についての共同体への情報伝達や調査に女性が積極的に関わった。開発プロジェクトの指導者や政治的な代表まで女性が進出しはじめている現状について積極的な評価をした。
  ニューズブレーク誌編集長のマリテス・ダングイラン・ヴィトゥグ氏は「MILF(モロ・イスラーム解放戦線)との和平協定の展望」と題し、モロ民族を代表するもう一つの組織に焦点を絞って発表した。政府とMILFの和平協定へ向けた話し合いは現在のところ順調で、2006年6月の締結が目指されている。MILFは停戦協定を維持し、また武装闘争を続ける勢力の摘発に協力している。最大の問題は、和平後にどれだけの資源や土地を、どれだけの自治権によってモロ民族(Bangsamoro)がコントロールするかである。合意への障害は、政治家や社会一般の反ムスリム意識、主に政府側のリーダーシップ、それに補償などに関わる予算の問題である。和平の内容がメディアに漏洩したが、保守的な政治家がMILFへの大幅な譲歩に反発した。また和平協定の効率的な実施やMILFの急進的な分派の中立化、既存のARMM政府との関係が課題になる。またマレーシアの役割が重要であり、停戦監視団を派遣しているほか、和平合意後は、キャパシティービルディングに協力する他、トルコやモロッコ政府の協力を得てイスラーム学校の支援の計画もある。
  インドネシアの解放党スポークスマンであるムハンマド・イスマイル・ユサント氏は「イスラーム団体の多様性:インドネシア解放党と東南アジアにおけるイスラーム諸団体の比較研究」と題する発表をした。多くの団体が反植民地主義のなかから登場した共通点があるが、解放党は革命的であり、カリフ制度を明示的に目指している特徴があることを明らかにした。解放党は現状の議会制民主主義制度に参加していないが、同党が「政党」であることは(西洋の)政治学の立場からも明らかであり、また将来の選挙への参加を否定しなかった。
  マレーシア国際イスラーム大学のソリヒン氏は「東南アジアにおけるイスラーム:一つのミッションにおける多様なビジョン」と題し、インドネシアのムハマディヤや福祉正義党、マレーシアのPAS(汎マレーシア・イスラーム党)などを比較し、またインドネシアのリベラル派の動向やマレーシアにおける国際イスラーム大学設立の意義など、東南アジアのイスラームの現状を網羅的に解説した。
  前半は見市建が、後半は南山大学の小林寧子氏がコメンテーターを務めた。見市は紛争におけるジェンダー研究の重要性を指摘し、インドネシアや南タイの事例と対比しながらコメントをした。小林氏はイスラーム研究の系譜を踏まえつつ、インドネシアのイスラーム潮流と本発表の位置づけについてコメントをした。参加者の大半は東南アジア研究者であり、議論は詳細に渡った。
(CISMOR共同研究員 見市 建)