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現代の過激派グループと世界分割:イスラームからの視点

CISMORセミナー

cismor セミナーシリーズ(第13回)

現代の過激派グループと世界分割:イスラームからの視点

日時: 2017年11月16日(木)15:00-16:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 至誠館3階S33教室
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
発表者:
  • 永田 正樹(法学博士) ロンドン大学東洋アフリカ研究学院法学修士課程修了、ブルネル大学法学博士課程修了。研究分野は、イスラーム法、国際人権法。
要旨:
永田氏は、イスラーム過激派によって頻繁に行われている、「タクフィール(“異端”の宣言)」、「ヒジュラ(“戦争の家”または“イスラームを拒否する人々の家”から“イスラームの家”への移住)」の呼びかけと、軍事的聖戦の開始について議論した。ポイントはイスラームの宗教的教義の誤解釈であり、そのことが過激派グループの勢力拡大の成功理由の一つになっているという。
 過激派の典型的な拡大過程は支配者や政府を批判し、“異端”宣言を行うことに始まる。過激派はしばしば、ムスリムが多数派を占める領域が“イスラームの家”から“戦争の家”または“イスラームを拒否する人々の家”に変化したと主張し始め、その領域のムスリムに“イスラームの家”へのヒジュラを求める。最終的に過激派は、その領域を“イスラームの家”に戻すための、神の名による軍事的聖戦を始める。いわゆる「イスラーム国(Islamic State: IS)」がその典型例である。彼らはヒジュラを“イスラームを拒否する人々の家”に居住しているムスリムに対するテストと捉える。中世のイスラーム法学者の言葉を引用し、“イスラームを拒否する人々の家”に居住する世界中のイスラーム教徒に対して“イスラームの家”へのヒジュラは義務だと強調し、ヒジュラを行うことは、自らの信仰を公式に示す意味があると主張する。
 永田氏はヒジュラの概念について、その意味と使用がイスラームの歴史上、変化してきたことを指摘した。本来ヒジュラは宗教的迫害からの単なる逃避であった。預言者ムハンマドは安全保障のためのヒジュラを求めたのであり、ISが主張するような、軍事的聖戦のために戦士を集めるものではなかった。
 次のテーマはイスラーム世界における“イスラームの家”と“戦争の家”との分割である。イスラームは伝統的にシャリーアによって支配されていない領域を“戦争の家”とみなすが、この分割自体はシャリーアに基づくものではない。このような分割に法的根拠はなく、中世の学者によって、中世のイスラーム教徒と異教徒との戦争状態の期間に作られた考えである。
 次に議論されたトピックは、現代の過激派が主張する、神の名による軍事的聖戦(ジハード)を、イスラームが認めてないことについてだった。過激派はある領域を“戦争の家”から“イスラームの家”に戻すための軍事的聖戦を始める。しかしコーランの中でのジハードは軍事的なものではない。コーランとスンナにおけるジハードは、神のために努力することである。特定の学者やグループは軍事的聖戦を呼びかける際の根拠をシャリーアに頼っているが、シャリーアに根拠はなく、軍事的聖戦という考えは人間により作られたものである。
 セミナーではタクフィールについても考察された。タクフィールという言葉と概念は、預言者の時代直後の7世紀にハワーリジュ派により展開されたものである。ハワーリジュ派は自分達のみが真のムスリムであると主張し、他のすべてのムスリムを不信心者と見なした。現在、ISがハワーリジュ派と同様、自らのみを真のイスラームと見なしている。彼らは宗教上の罪を異端の証拠と見なし、罪人に対して“異端”宣言を行った。ハワーリジュ派は初めてタクフィールを行い、以来、タクフィールは過激派や学者によってイスラームの歴史において繰り返された。タクフィールはシャリーアに法的根拠はなく、実際にはシャリーアでは禁止されている。タクフィールに関する言及はコーランにはないが、コーランの立場は明瞭である。それは、人が人に対して異端宣言を行う権利はなく、神のみが不信心者かどうかの決定権をもっており、その決定は死後にのみ行われるということである。
 上記のようにセミナーではイスラームの教義と概念に関する誤解釈について考察された。永田氏はタクフィールを終止することが初めの一歩であると強調し、現代におけるムスリムによる軍事的聖戦を止めさせるために重要であると結論付けた。

(CISMORリサーチフェロー 永田正樹) 

1. 本セミナーは研究者・学生(聴講生含む)が対象になります。
2. 講義は主に英語で行われますが、日本語による解説も行う予定です。
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