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【2005年度 第1回研究会】
| 日 時 |
| 2005年4月26日 |
| 開催地 |
| 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館 |
| タイトル |
| 「シリアの現代イスラーム事情」 |
| 講師 |
| 下村佳州紀(在シリア日本国大使館専門調査員) |
| 要 旨 |
オスマン帝国時代よりシリアは多民族国家であるが、近代以降の諸外国による干渉によりアラウィー国家、ドゥルーズ国家が成立する等、その過渡期において外的要因による混乱を経験した。諸外国は干渉の際に、各宗教に政治的要素を絡ませた。現在のシリアで最も多い宗教はイスラームであり、その大半は全人口の68%を占めると言われるスンナ派だが、実際は少数派のアラウィー派が、近代教育の導入以後、軍隊にその勢力を広げることによって支配権を確保してきた。一方で、同様に少数派であるドゥルーズ派は政権を掌握するにはあまりにも少数であるため、政治のキャスティング・ボードを握ることはなかった。キリスト教に関してはギリシア正教が最も多いが、中東におけるキリスト教事情として、ローマと東方など、その分裂の過程にも絡んでいる点はシリアの特性と言える。
イスラームの観点ではセム系一神教はアブラハムを頂点とする同族宗教であり、それ故シリアにおいて従来イスラームはキリスト教に寛容であり、それはまた世界が認めるところであった。そのイメージが変貌したのは植民地時代を経てからである。教育面での諸外国に対する遅れから、今世紀の始めに高校すら無かったダマスカスは早急に教育整備を始めたが、そこにおいて、エジプトのムハンマド・アブドゥフに代表される改革主義者、すなわち諸外国に支配されるに至った原因をムスリム自身にもとめ、内省に基づいたイスラーム改革を思考した人物がシリアにも登場した。
それ以来、現代シリアの自覚的ムスリムの心には常にそういった状況の打開に対する自省の意識がある。例えば、近代以前にはアッバース朝建国活動期の政治的「呼びかけ」やスンナ派以外への「呼びかけ」という限られた文脈で使われたダーワという用語が、近代以降はスンナ派において広く「宣教」の意味で肯定的な文脈において使われるようになった。但し、一般的に宣教というと対外宣教のイメージが強いが、現代シリアにおける宣教はムスリム自身がまず襟を正すべきだという内省的な色彩が濃い。キリスト教は特にイエズス会の活動によりその教区を広げたが、外部に対するイスラームの宣教は、より組織化されていない。
シリアのムスリムの一般像に関して言えば、彼らのイスラームへの感情的愛着が宗教的実践を招来するわけではないことにも注意を払いたい。また、例えば若い女性がヒジャブにファッション性を見出すなど、可視的要素のみから彼らの宗教心を図るのは困難である。
昨今唱えられる「文明の対立」に関しても、例えばアメリカがシリアを敵視したことについて、アメリカという特定の国に対する反撥はあっても、キリスト教圏に対する反撥が生まれているわけではない。寧ろ、現実の国際政治の動きがムスリムの対外認識形成に及ぼす影響のほうがずっと大きい。現代シリア・イスラームの特殊性の一つとして、イスラームが非政治的であることが挙げられる。ここでの非政治性とはイスラーム政党の不在を意味しており、かかる立場は故アフマド・クフタロー・グランド・ムフティーの長年の立場でもあった。
(同志社大学大学院神学研究科前期課程 高尾賢一郎) |
