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アメリカ大統領選挙と宗教票の行方
2009年11月15日
(2008/9/17記)
一神教学際研究センター長 森 孝一
共和党の大統領候補マケインは予想に反して、女性のサラ・ペイリン・アラスカ州知事(44)を副大統領候補に指名した。国政の経験が全くないペイリンを指名したマケイン陣営の思惑はどこにあるのだろうか。
ペイリンを副大統領候補に指名したことは、マケインにとって大きな賭けである。マケインにはない若さと国政に毒されていない新鮮さは、裏返せば、72歳のマケインに「もしも」のことがあった時に、ペイリンに大統領を任せてもいいのかという危惧を生み出すことにもなる。
女性であることによって、民主党のクリントン支持者の票を獲得することを狙ったという分析は、まったくの的外れだ。ペイリンは中絶、同性愛、進化論教育に反対する筋金入りの超保守派として知られており、マケインに流れるクリントン支持者を思いとどまらせる可能性の方が高い。
マケイン陣営の本当の狙いは、「福音派」と呼ばれる宗教票であった。福音派は聖書の教えを文字通り受けとめ、キリストによる救いを大切にし、神を中心とした世界観と価値観を重視する保守派のプロテスタント教徒である。
アメリカのキリスト教徒は全人口の8割だが、福音派はその4割。全有権者の3割を占める巨大な票田である。前回の大統領選挙では、福音派票の8割を固めたことが、ブッシュ当選の大きな要因になったと言われている。
両候補の支持率が拮抗するにつれ、宗教票の行方が大統領選を左右するのではないかという思いが、両陣営に広がっている。
8月 16日、ロスアンゼルス郊外にある福音派の「メガチャーチ」(巨大教会)であるサドルバック教会で、オバマとマケインは選挙戦ではじめて席を同じくした。両候補はそれぞれ1時間ずつ、当教会のウォーレン牧師のインタビューに答えた。質問の大半は両候補の世界観と価値観についての問いであった。このインタビューは全米のメディアの注目を集めたが、これは両陣営が宗教票の行方に大きな関心を抱いていることの一つの実例である。
福音派の多くが共和党支持であることは今回も変わってはいない。しかし、前回のブッシュと違い、マケインは福音派から全幅の信頼を得られていない。マケインは、かつて「宗教右派」が共和党を牛耳っていることを批判したことがある。また、マケインはブッシュのように、自分の信仰や宗教について進んで語ることをしない。そのために、福音派のなかにマケインに対する不信感がくすぶっていた。ペイリンを副大統領候補に指名することによって、「あなた方のことを忘れてはいない」というサインを送ろうとしたのだろう。
実は1988年の大統領選挙においても、同じ現象が起こっていた。共和党の大統領候補であった「父ブッシュ」も、福音派からは「東部のエスタブリッシュメント」で「自分たちとは違う世界の人」と受けとめられていた。「父ブッシュ」は宗教右派に近いクエールを副大統領候補に指名することによって、宗教票をつなぎ止め当選を果たした。
それではこれで福音派の宗教票はマケインに流れるのか。福音派の政治的関心はとくに近年多様化してきている。従来通り、中絶と同性愛婚反対を主要課題とする「ローカル派」と、地球温暖化、世界の貧困、アフリカのエイズを主要課題と考える「グローバル派」に二分化してきている。これはこれまでの大統領選にはなかった現象である。
オバマ民主党が「グローバル派」の福音派票をどの程度獲得できるかが、選挙の行方に大きな影響を与えていくだろう。



