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「イラン・イスラム共和体制とは?」

公開講演会

「イラン・イスラム共和体制とは?」

  • 「イラン・イスラム共和体制とは?」1
  • 「イラン・イスラム共和体制とは?」2
日時: 2012年11月24日(土)13:30-15:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階礼拝堂
講師: 駒野欽一(前駐イラン日本大使)
要旨:
 本講演において駒野⽒は、イラン理解のためにイラン・イスラム共和体制を三つの点から分析された。第⼀に現在のイラン・イスラム共和体制の形成はホメイニ師の考え⽅と共に、過去三分の⼀世紀に経験してきた様々な出来事の影響が⼤きい。それは宗教界、⾰命ガード、政府、「国⺠」の四者に⽀えられており、まず宗教界はホメイニ師の存在ゆえにという⾯はあるが、彼亡き後、その基本的な役割は彼の時代に完成した体制の護持であり、またイランで三権の他の⼆権と並んで⼤きな権限を持つ司法権を握っている。次に⾰命ガードはイラク戦争を戦った⾰命組織の代表的存在である。それらは志願兵を募り戦闘を担ったほか銃後での⽀援も⾏い、現体制を軍事⾯、治安⾯、経済⾯、政治⾯で⽀える集団となっている。またそれらは最⾼指導者の指揮下にある。そして政府は⽯油収⼊を中⼼とする巨額の資⾦を使う⽴場にあり、最⼤の雇⽤主、そして最⼤のシンクタンクでもあるため⾃らの志向する⽅向に政策策定が出来る能⼒を持つ。この政府の⻑たる⼤統領の権限は⾮常に⼤きいため、彼の考えが重要になる。最後に「国⺠」とは必ずしも全国⺠ではなく、戦時には戦場に⾏き、⾦曜礼拝に参加し、最⾼指導者の訴えに応えて⾏動する⼈達を指す。その⽀持に現体制は依拠するゆえに最⾼指導者も⼤統領もその⼼を掴む努⼒をしている。
 第⼆に彼らの世界観、宗教観、アイデンティティの問題が重要である。最⾼指導者と⼤統領が繰り返し述べる世界観では、⽶国など⻄側世界が経済的にもモラル的にも衰退の⼀途にあるのに対し、イランはイスラームという宗教を持ち、⾰命の原則を固持してきた結果、独⽴と経済産業⾯での発展を成し遂げ上昇の⼀途とされる。それでこのイランの成功に⻄側は我慢ならず、あらゆる攻勢を仕掛けて潰しにかかっている。ゆえにイランはこれまでの原則を曲げず最⼤限の努⼒を続けることでこの攻勢に対抗しなければならないとする。次に宗教観だが、イランはシーア派のリード国である。スンニ派とは異なりシーア派は法だけでなく内的精神としての宗教を重視する密教的な宗教である。また神と⾃分との直接的な関わりを求める姿勢が強いようである。そしてイランでは神と預⾔者ムハンマドに加え、預⾔者の娘婿アリーの⾎統の12⼈の指導者達が重要で、特にお隠れになった12代⽬イマームが再び姿を現すことを待ち望み、それまではイスラーム法学者が世を統治すると考えている。この再臨をめぐって⼤統領の周辺の⼈々と宗教界との間で対⽴が起こるなど、宗教観の対⽴は⼤統領派と反⼤統領派との権⼒闘争の⼀側⾯ともなった。そしてアイデンティティの問題だが、イランは多⺠族国家であり、⻑い歴史を有し、イスラーム以前の豊かな⽂化・⽂明もあるため、その伝統に基づく⺠族主義がある。同時に7世紀以降はイスラームに改宗し、現在はそれに基づく社会作りをしているためイスラームの存在は⾮常に⼤きい。このイラン⺠族主義とイスラーム主義はしばしば対⽴の底流をなし、⼤統領派と反⼤統領派の権⼒闘争にはこの側⾯もある。
 第三にこのような社会で起こることとしてまず権⼒闘争が不可避である。宗教観、アイデンティティの分裂があり、最⾼指導者や⼤統領と、⻄側との友好関係を願う改⾰派とは理念も異なる。また経済の⺠間主導が進まない中で政府の⼒が増⼤し、⼤統領の権限が⾮常に⼤きいことも権⼒闘争の繰り返しを⽣む。   
 前回の⼤統領選挙では改⾰派の盛り上がりに対し最⾼指導者の下にある保守原則派と⼤統領派がそれを潰すために⼀致団結をした結果、改⾰派⽀持の国⺠の考え⽅は変わらないものの、組織的には完全に抑えられてしまった。しかし共通の敵が姿を消すと、団結していた⼤統領派とその対抗勢⼒の分裂が⽣じ、そのあとは⼤統領派をある程度追いつめた⼈々の間で対⽴する現象が起きた。しかしそれで体制が崩壊へ向かうわけではない。体制護持をその最⼤の役割とする宗教界は⽇頃から「国⺠」の⽀援や⿎舞をすることで必要な時に彼らを動員して反対勢⼒を⼒で抑えると共に、司法権や治安組織が反対派を徹底的に抑える役割を果たしている。このようなメカニズムを通して体制護持のバネが働くことに加えて、体制護持のためには原理原則をも曲げて柔軟に対応する⾯もある。例えばイラン・イラク戦争ではフセイン打倒を⼤原則としていたが、実際には資⾦や志願兵の不⾜、アメリカ参戦の徴候などから体制の危機に直⾯して、その⽬的を達することなしに停戦を受け⼊れるという柔軟性も⾒せた。そして最後に現在の核問題について駒野⽒は、今後の状況の展開如何によってはイランがドラスティックな譲歩を⽰すこともあり得るのではないかと指摘し、講演を締めくくった。
 講演会の後、⾮公開で⾏われた研究会では核問題の動向やイスラエルとの関係などをめぐって参加者による活発な議論が展開された。   (CISMOR特別研究員 朝⾹知⼰)
※入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学 一神教学際研究センター (CISMOR)
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
講演会プログラム