同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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「日本宗教と一神教──宗教概念、普遍性をめぐって」

公開講演会

第1プロジェクト公開シンポジウム

「日本宗教と一神教──宗教概念、普遍性をめぐって」

  • 「日本宗教と一神教──宗教概念、普遍性をめぐって」1
  • 「日本宗教と一神教──宗教概念、普遍性をめぐって」2
日時: 2012年01月21日(土)13:00-15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス神学館3階 礼拝堂
講師: 磯前順一 (国際日本文化研究センター研究部准教授)
小原克博 (同志社大学神学部教授、CISMORセンター長)
要旨:
小原センター長は、一神教と多神教(≒日本宗教)の価値観が現実問題のなかでどのよ
うに働いているのか、ということを見ながら、現代の倫理的課題を探っていった。
 日本では90年代後半以降、チューブを通して胃に栄養をとりいれる「胃ろう」が拡大している。これは、もともとアメリカで開発され技術であるが、欧米では広まっていない。ここには保険制度の違いだけでなく、価値観の違いも影響していると考えられる。欧米では、食べられない状態で無理に延命することは人間の尊厳に反する、と見なされる。それに対して日本では、延命は良いこと、あるいは親孝行と見なされる。また、原発問題にあっては、原子力エネルギーのように、自然を対象化し管理しようとする考えと、循環エネルギーのように、自然と一体化し、共存しようとする考えが対立させられている。
それら二つの問題にみられる考え方の背後には、一神教的価値観(とそれに基づく啓蒙主義や個人倫理)そして多神教的価値観(とそれに基づく生命観や共同体倫理)が働いていると考えられる。必要なのは、それらを対立させるのではなく、異なる生命観・自然観・文明観を架橋する対話的な知恵であろう。
  ただし、その架橋を「普遍性」に期待するのは難しい。例えば「己の欲せざるところ、人に施すなかれ」といった、いずれの宗教や文化にもみられる黄金律をもとにして共存をはかろうとする考え方がある。しかし、価値が多元化した現代では、普遍的に通用する共通要素は見いだしがたい。また、キリスト教や仏教といった宗教的枠組みだけで物事を捉えていては、人間を矮小化することになる。同じ信仰をもつ人々のなかにも多様な価値観があるからには、複数のアイデンティティの存在を認めなければならない。
以上のような考察をふまえ最後に、既存の宗教を自明視するのではなく、現実の課題のなかで、宗教的アイデンティティを適切に位置づけていくことの重要性が強調された。
 続いて磯前氏は「純粋なキリスト教は存在するのか」という問いを中心に据えながら、一神教と多神教についての考察を深めていった。これまでヨーロッパでは、一神教のほうが多神教より「進んでいる」という進化論的価値観がもたれていた。現在では、こうした観方をする研究者は少ないし、そうした二分法自体に疑義が抱かれるようになっている。例えば、真言宗を研究するドイツの学者は、曼荼羅を例に出し、多神教であっても中心的な神がいるのではないか、と言う。逆に、カトリックにおける天使の存在や、カルヴァン派の教会建築にみられるギリシャ神話や異教の神のモチーフからすると、キリスト教は果たして一神教か、という疑問も出てくる。
いずれにしろ、一神教と多神教をどう理解したらいいのか、という問いに明確な答えはない。重要なのは、その宗教が、各社会の中でどのように機能しているのか、ということだと考えられる。
ヨーロッパでは、教会の権威が失われていくにともない、キリスト教の意義づけも改められていった。例えば、精神分析の方法によって新しい宗教的意味を探求したC.G.ユングは「受難したキリスト」を強調する。各人が自分らしく生きるためには、イエスの受苦にならい、それぞれの無意識の苦しみを意識化する「個性化過程」が重要だ、と言うのである。また彼は、キリスト教をマンダラによって描いており、一神教と多神教に同じような働きがあることを示唆している。一方、日本におけるキリスト教については、氏の個人的な経験が紹介されたあと、受苦の教えと悪人正機説の重なりが指摘された。そして、他者とともに苦しみたい、という芥川龍之介の「おぎん」の信仰が紹介され、日本で読み直されたキリスト教の可能性が指摘された。ただし、日本には疑似キリスト教ともいえる「天皇制」が出現した過去があり、政治的文脈への視点も忘れてはならない。
 以上のような観方は「土着化」論に似ているが、それは「純粋な宗教」の存在を前提とている。そうした前提をもたず、各社会のなかに埋め込まれた、それぞれの宗教の在り方を観ることによって進化論的価値観は乗り越えられると考えられる。その後の研究会では、「一神教/多神教」という二分法、宗教の普遍性や純粋性といった、両氏がともに指摘した問題を軸にしながら議論がおこなわれた。

(CISMOR特別研究員 藤本龍児)
【プログラム】
◆講演
磯前順一 (国際日本文化研究センター研究部准教授)
小原克博 (同志社大学神学部教授、CISMORセンター長)
◆パネルディスカッション
パネリスト: 磯前順一、小原克博
司会: 濱真一郎 (同志社大学法学部教授)
【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
※入場無料・事前申込不要
講演会プログラム