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アメリカの福音派に、いま何が起こっているのか?−水面下で進む大変化について−

公開講演会

第2プロジェクト 公開講演会

アメリカの福音派に、いま何が起こっているのか?−水面下で進む大変化について−
What's Happening to American Evangelicals: Are there Big Changes Underway?

  • アメリカの福音派に1
  • アメリカの福音派に2
日時: 2010年01月16日(土)13:00−15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス クラーク記念館 2F礼拝堂
講師: リチャード・ザイジック(全米福音派連盟 前副会長)
要旨:
 氏はまず、われわれが今、人間の歴史において決定的な瞬間に立ち会おうとしている、と述べ、まただからこそ新しい時代の到来にそなえて、認識、思考、行動、いずれの次元においても大変革が必要である、と言って講演を始めた。そして自分たち新しい福音派は、親の世代や、またその上の世代の福音派とは異なる新しいヴィジョンと戦略をもっていると言って、次のように話を進めていった。
なぜ、現在が決定的な瞬間なのか。それは第一に、エネルギーにまつわる歴史的な変革が起きようとしているからである。これからはエネルギーの供給源を、太陽光や風力、地熱といった再生可能なエネルギーに変えていかなければならない。しかし、こうした大変革の時代には、さまざまな所で摩擦が生じるし、歴史上繰り返されてきたように終末論が起こってくる。たとえば、現在アメリカで、『レフト・ビハインド』という小説が史上最高の人気をはくしている。シリーズ累計で4000万冊、関係書籍も1700万冊が売れ、作者に入る印税は、毎年1億ドルにのぼるらしい。その小説は、太平洋を横断中の飛行機のなかで、乗り合わせた人々のうち、3分の1が忽然と姿を消す、という場面から始まっている。奇妙に思われるかもしれないが、これは、福音派が「Rapture(携挙)」と呼んでいるもので、神によって安全な場所に引き上げられ、救われる、という現象をあらわしている。つまり、この小説は、キリスト教の終末論にもとづいて構成されているのである。
このようなエネルギーの変革と終末論のブームのなかで、旧い福音派は、いずれキリストが再臨し、自分たちは別の地球に携挙されるから何もしなくてよいのだ、と考えている。それに対して新しい福音派は、自分たちが携挙されるとしても、今の地球にたいして責任があり、この地球をケアし、再生可能なエネルギーへ変革していかなければならない、と考えるのである。
今が決定的な瞬間にあるという二つ目の理由は、「科学と宗教」ついての考え方に変化が求められているからである。旧い福音派は、科学を、信頼できない危険なものであると考えている。一方、たとえばリチャード・ドーキンスのような科学者は、進化論を信じるためには無神論者でなければならない、と考えている。つまり、科学を全否定する人々と、宗教を全否定する人々が対立しているのである。しかし、それら両極端な考え方のどちらかを選ばなければならない、ということではない。たとえば、ヒトゲノム研究の第一人者であり、オバマ大統領によってアメリカ国立衛生研究所の所長に抜擢されたフランシス・コリンズは、次のように言っている。宗教と科学は対立するものではなく、神の領域はスピリチュアルな世界のものであり、科学の領域は自然な世界のものであり、この二つの世界は、互いを必要としている、と。新しい福音派も、両者を対立するものとは捉えない。ゆえに、気候変動が起こっているというデータなども受け入れて、それへの対処が必要であることを訴える。
三つめの理由は、核兵器にたいする姿勢にかかわっている。これまで福音派は、対ソ連という冷戦構造の最前線で活動してきた。たとえば1983年のレーガン大統領による「悪の帝国」演説などは、福音派との関わりのなかでなされたものである。ゆえに旧い福音派は、冷戦構造を前提にした認識や考え方を引きずっており、いまやソ連が解体し、核兵器を持ち続ける根拠が薄れたにもかかわらず、核廃絶の道へ歩みだすことができない。実際、私が核問題について言及すると、旧い福音派のリーダーたちからは、そんなことよりも中絶問題のほうが重要である、と釘をさされてしまう。
しかし現在、エネルギー問題や気候変動、核によるテロなど、大きな変革の時代にさしかかっているからには、新しいヴィジョンと戦術が必要であることは間違いない。新しい福音派は、ヴィジョンの中心に「共通善」を据えている。ここでいう共通善とは、基本的には、魂の次元でも身体の次元でも、全ての人にとって善である、ということである。ゆえに、たとえば、自然に存在している資源は全人類の共有財産である、と考えることになる。また、旧い福音派は、何かに「対立」するという姿勢をとって活動してきた。逆に、新しい福音派は、多くの人々と「協力」するという姿勢で活動する。
サイジック氏は、各国の人々が、現在のように多くの関心を共有しているということはこれまでなかった、という事実に注意を促し、共通善と協力を重視する新しい福音派の意義と可能性を、改めて強調して講演を終えた。

(CISMOR特別研究員 藤本龍児)
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