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アラブのメディアと中東における紛争─アルアラビーヤ放送の現場から

公開講演会

第1プロジェクト 公開講演会

アラブのメディアと中東における紛争─アルアラビーヤ放送の現場から
Arab Media and the Conflicts in the Middle East: A View from the AL ARABIYA TV

  • アラブのメディアと中東における紛争1
  • アラブのメディアと中東における紛争2
日時: 2011年06月29日(水)17:00−19:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 至誠館1階 S3教室
講師: アントワン・アウン (アルアラビーヤ衛星放送/報道部長)
ナージー・アルハラーズィー(アルアラビーヤ衛星放送/報道局シニア記者)
要旨:
 チュニジアのいわゆる「ジャスミン革命」にはじまる中東の一連の政治変動を、現地のマスメディアはどのように報じ、評価しているのか。笹川平和財団・笹川中東イスラム基金の招待で来日中の「アルアラビーヤ」放送のアトワン・アウン報道部長と、ナージー・アルハラーズィー報道局シニア記者が解説した。MBCグループに属す同放送は、アラブ首長国連邦のドバイに本拠を置き、2003年の設立以来、24時間体制で報道を続けてきたニュース専門チャンネルである。
 まず、アウン氏がチュニジア・エジプトを中心とした全体の状況を論じた。氏によれば、アラブの独裁体制は、イスラエルと長らく不思議な共存関係にあった。相手との敵対関係を口実に、アラブの独裁者たちは民主化の先送りを正当化できたからである。チュニジアの前大統領ベン・アリは、そうした独裁者の1人であった。アラブ各国のマスメディアも厳しい国家管理の下におかれ、「イスラエル問題」とは対照的に、国内問題を正面から批判する力を持たなかった(同時に、イスラエルのマスメディアも、アラブの独裁者の恐怖を煽ることで、自国のパレスチナ占領を正当化してきた)。
 しかし3つの出来事が、アラブ地域の「政治とメディア」をめぐる状況を大きく変える。1つは中東の「政治ゲーム」に、ビン・ラーディンが参加したことである。彼は欧米諸国を激しく批判するだけでなく、一般大衆を抑圧するアラブの指導者も、イスラエルの手先だと訴えて、多くの若いアラブ人(ムスリム)を惹きつけることに成功した。2つめは、9.11以降の米国の軍事介入、とくにイラク戦争の衝撃である。自発的な変革ではなかったが、中東の人々は、独裁者が地位を追われて無様に取り調べられる姿を、マスメディアが流す映像を通じてまざまざと目撃した。そして3つめは、アルアラビーヤやアルジャジーラなどの衛星放送の定着と、ソーシャルメディアの普及である。こうした新しいメディアが伝える情報から人々は、自分たちの独裁政権に対する長年の「疑念」が、「事実」であることを確信し、ついに抗議活動に立ち上がった。
 ただし、アウン氏は同時に、ソーシャルメディアが伝える情報や映像の信憑性に関して、マスメディアが判断に苦しみ、時には誤りを犯したことを告白する。また社会が比較的均質的で、中央集権化が進んでいたチュニジアやエジプトと比較した場合、東西の大きな部族対立をかかえるリビアや、深刻な宗派対立を抱えるシリアの政治変革は、より大きな困難を伴うことを指摘した。とくにシリアの体制変動は、周辺国──なかでも、同様の宗派対立や民族対立を抱えるトルコに深刻な影響を与える可能性がある。
 ついで、アルハラーズィー氏が、6月3日にサレハ大統領の暗殺未遂事件が起こったイエメンの状況に焦点を絞って、分析を披露した。同国でも、冷戦中から権力の座にある大統領の退陣を求める抗議行動が起こっている。しかし、氏が最も強調したのは、現状維持を望む有力な勢力の存在である。まず長年大統領とゆるやかな協力関係の下で、現状を維持してきた有力部族グループの態度が分かれている。大統領との関係の悪化から若者の抗議活動を支持するリーダーもいるが、既得権益の喪失を恐れる勢力も根強いからである。軍部についても、少なくとも一部のリーダーたちは、政治変動を望んでいない。
 また国外を見ても、米国は急激な変化を好ましいとは思っていない。同国の南部にアルカイダ系勢力の根拠地があることと、サウジアラビアをはじめとした周辺の産油国に影響が波及することを懸念しているからである。こうした状況を勘案すると、イエメンの政治変革は、起こるとしても、チュニジアやエジプトとは相当に“季節”がずれ、ひとくくりに「アラブの春」に含められる可能性は低いだろうとの指摘がなされた。

(CISMOR特別研究員 中谷直司)
※英語講演:逐次通訳あり
※入場無料・事前申込不要
【主催】CISMOR/ 笹川平和財団(SPF)・笹川中東イスラム基金(SMEIF)
【共催】同志社大学 神学部・神学研究科
【講師変更のお知らせ】
諸般の事情により、予定されておりました講師が変更されました。ナヒラ・エルハッジ アルアラビーヤ衛星放送報道局長に代わり、アントワン・アウン アルアラビーヤ衛星放送報道部長が講演いたします。
皆様にはご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんが、ご理解の程宜しくお願い申し上げます。
講演会プログラム