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テロとの戦争終結を探る ―ファーストステージ―

公開講演会

テロとの戦争終結を探る ―ファーストステージ―

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日時: 2015年12月05日(土)13:30-15:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 良心館1階RY107教室
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師: 出川 展恒(NHK解説委員 中東・イスラム地域担当)
北澤 義之(京都産業大学国際関係学科 教授)
要旨:
まず出川氏がISの脅威とそれへの対応について講演した。11月13日夜にパリで発生した同時テロは、約30分間に8か所で爆発や銃撃が起き、合わせて130人が死亡した。ISが出した声明は、「十字軍の旗を持つフランスの心臓部を標的にした」と述べ、フランスのISに対する軍事作戦を理由に挙げ、「攻撃は今後も続く」と警告している。パリという国際都市でテロを行う宣伝効果の大きさ、フランス社会に不満を募らせるイスラーム系移民の2世や3世の若者の多さ、EUのシェンゲン協定で国境の往来が自由であることも、今回のテロの背景にある。首謀者はISの機関誌等に度々登場していたモロッコ系ベルギー人で、ヨーロッパの若者の勧誘や外国への攻撃の中心的役割を担っていた。フランス、ベルギーなどヨーロッパからISに繋がるネットワークの存在が浮上した。
 ISは2003年のイラク戦争後、国際テロ組織アルカイダのイラク支部として始まり、2011年のいわゆる「アラブの春」で内戦状態に陥ったシリアに活動拠点を拡げた。その後、路線対立からアルカイダと絶縁し、2014年6月、イラクのモスルを制圧し、シリアとイラクにまたがる「イスラーム国」の建国を一方的に宣言した。ISは従来のテロ組織とは異なり、領土の獲得・拡大を重視したが、その後、アメリカを中心とする有志連合の武力行使により、支配地域は縮小傾向にあった。このため、ISは戦略の転換を余儀なくされ、パリや世界各地で大規模テロを行うことで巻き返しを図っていると見られる。ISの資金源は、支配地域で略奪した石油の密輸、“税金”の徴収、誘拐による身代金などで、潤沢な資金を持つ。またITを駆使して世界100カ国以上から2〜3万人の外国人戦闘員を集めている。このうち1〜3割程度はすでにイラク、シリアを離れ、出身国に帰ったと見られる。
 有志連合に参加する65の国と組織はすべてISの敵とみなされ、テロの標的となり得る。日本も有志連合に参加しており、G7サミットやオリンピックを控え、テロ対策を強化する必要がある。今後のテロ対策のポイントは、第1に「国際的な連携と協力」、第2に「ISの封じ込め」、第3に「シリア内戦の終結」の3つの次元で考える必要がある。軍事作戦は対処療法に過ぎず、ISに向かう戦闘員、資金、武器の流れを断つ取り組みがより重要である。ISが支配・活動する「権力の空白地帯」をなくすため、シリアの内戦を終わらせることが不可欠だが、アメリカとロシアが合意したシリア和平案の実現は容易ではない。急増するシリア難民や国内避難民は深刻な人道的危機にさらされており、「1人でも多くの命を救う」という発想で国際社会が結束することが求められている、と結んだ。
 次に北澤氏が過激主義に繋がるイスラームと政治の歴史的流れについて講演した。イスラム過激派が国際化する背景に、まずイラン・イスラーム革命がある。これにより米国がイスラームを危険視し、戦略に組み込んだ。もう一つは同時期に発生したアフガン戦争である。ソ連の介入に対する抵抗運動に参加するイスラム教徒を米国が間接的に支持したことで、武器をとってイスラム教徒が活動するという形が作られた。つまりこの時、米国が一方でイスラームを警戒、他方で支持するという相矛盾する動きが現れた。
 イスラームでは、宗教指導者である預言者ムハンマド自身が生前、実際に政治も行い、それが続く正統カリフ時代にも引き継がれた。この時代が後のイスラム主義から政教一致の理想的時代とみなされる。
 スンニ派では9世紀にイスラーム法の自由な解釈が停止されるが、イブン・タイミーヤはそれに従わず、イスラームの本来の姿の回復を主張した。オスマン帝国はスルタンがカリフも引き継いだが、カリフの影響力は12世紀頃で失われた。その後、ヨーロッパの帝国主義の影響が及ぶと、それに抵抗する意味でイスラームの再解釈が求められ、その純化、改革を主張するワッハーブらが現れる。またエジプトを中心にサラフィー主義が展開した。
 1924年にはトルコが共和制になり、カリフ制を廃止、憲法でイスラームと政治の分離を明言した。エジプトは独立していたが実質的には委任統治同様の状態だったため、英国支配からの脱却、自立化、イスラーム世界全体の解放を目指し、ハサン・バンナーを中心にムスリム同胞団が設立された。当初、反帝国主義でナショナリズムとイスラム主義は協調したが、その後、両者間には様々な葛藤が生じた。またサウジアラビアはイスラームこそ中東の重要な価値、社会の根幹であると主張し、主にモスクやイスラム学校を作る名目で各地に資金援助を行った。
 イスラームを名乗るテロは、初期にはシーア派系グループなどによって行われていたが、1990年の湾岸戦争と2003年のイラク戦争が転換点となり一気に増大した。イラク、シリアの混乱がIS勢力拡大の呼び水になり、その流れの中でパリのテロが外国人勢力を介して起こった。ただしイスラーム主流派はISをイスラームとは無関係のテロリストとみなしていると指摘し講演を終えた。
 二氏の講演の後、会場との質疑応答が行われた。
(CISMOR特別研究員 朝香知己)

※入場無料・事前申込不要

【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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201501205プログラム