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地中海地域の哲学者としてのマイモニデス

公開講演会

第1プロジェクト 公開講演会

地中海地域の哲学者としてのマイモニデス
The RAMBAM as a Mediterranean Philosopher

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日時: 2009年12月19日(土)13:00 - 15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 至誠館2階 S21教室
講師: サラ・ストルームサ (ヘブライ大学学長、アラビア文学・アラビア語学科教授)
要旨:
本講演においてサラ・ストルームサ教授は、ユダヤ民族史における最重要人物であり、最も傑出した中世ユダヤ思想家であるモーセス・マイモニデスを取り上げ、総合的な知的活動の一部である彼の哲学を、「地中海文化世界」というコンテキストのなかで詳らかにした。
従来のマイモニデス研究においては、マイモニデスとイスラーム世界との連関はそれほど明瞭に描き出されてきたとは言い難い。マイモニデスの様々な社会的活動はもっぱらユダヤ社会の文脈の中で扱われることが多く、イスラーム世界は背景へと退いている。また哲学や諸科学の分野に関しては、確かにイスラーム哲学との関連が指摘されてきたものの、彼の哲学が当時のイスラーム哲学全体にどのように統合されているのかという点に関しては、詳細な研究はなされていない。つまり、彼の諸活動は他文化やその発展とは独立して遂行されたかのような印象を与えてしまうことになる。
 講演者はこうした事態を避けるために、地中海世界を文化の統合原則と理解し、「単一のユニット」(フェルナン・ブローデル)と捉える包括的なアプローチを採用し、その文化的コンテキストのなかでマイモニデスの諸活動を把握する。その結果として、明らかとなるのは、マイモニデスは地中海というひとつの世界を形成する、複数のサブカルチャーに同時に帰属しており、彼の知的活動の所産にはその文化的多層構造が反映されているということである。また、そうした文化的多層性は単に共時的なものであったばかりでなく、様々な宗教伝統を顧慮した通時的なものでもあった。彼は各々の文化的伝統が有する多層性を捨象することなく、考古学的に文化的遺産を発掘し、それらと弁証法的に対話をすることで彼独自の思想を形成したのである。
 マイモニデスのこうした思想形成は、当時の地中海世界における政治的背景と少なからず関連している。マイモニデスが1135年にコルドバで生まれた際、その土地を支配していたのはムラビト朝であった。その後、ムワッヒド朝がコルドバを征服し、キリスト教やユダヤ教への迫害が始まると、マイモニデス一家は北アフリカのフェスを経て、十字軍の支配するパレスチナに逃亡する。最終的に、彼らはファーティマ朝の支配するエジプトに移住することになった。この間、マイモニデスは四つのイスラーム政体と、それらを支持するイスラームの法学や哲学の学派に邂逅する機会を持った。こうした危機の生涯を通して、マイモニデスは非常に多彩な文化や政治体制に接触することができたのである。
 また、マイモニデスはアリストテレス主義を自称するが、彼自身が弟子に推奨した注解書からも明らかなように、その解釈はアラビア文化を経由したものである。また、天文学、医学、数学などを哲学の重要な一部と看做したことにも、彼の知的活動の多層性が窺い知れる。このように、マイモニデスは諸文化を統合する地中海世界を象徴する人物だと言える。ただし留意しなければならないのは、そうした文化的統合を達成し得たのは極めて稀な事態であったということである。それを可能としたのは他ならぬマイモニデスのパーソナリティーであり、その点に彼の思想の独自性と偉大さが認められるのである。

(CISMORリサーチアシスタント 上原 潔)
※英語による講演(通訳あり) ※入場無料、事前申込不要 ※お問合わせ:一神教学際研究センター 075-251-3972
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