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最近のコーカサス情勢―政治変動、民族紛争、宗教、グルジア紛争の影響などを中心に―

公開講演会

最近のコーカサス情勢―政治変動、民族紛争、宗教、グルジア紛争の影響などを中心に―

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日時: 2009年02月14日(土)午後1時~2時30分
場所: 同志社大学 神学館3階 礼拝堂
講師: 廣瀬 陽子(静岡県立大学国際関係学部・准教授)
要旨:
コーカサスは、その地政学的位置と天然資源が豊富なカスピ海を擁することから、大国にとっての戦略的重要拠点であり続けた。しかし同地域は多くの民族、宗教、言語、文化が交差する地域で、またロシアの影響力も根強く残っており、その安定、民主化は容易ではない。特に宗教に関しては、ソ連時代の終焉を機に、それまで禁じられていた特定宗教の活動、意識の復興が見られ、国境と重ならない紛争が多数勃発することになった。講演は、そういったコーカサス地域の複雑な地政を読み解いた上で、同地域の安定が今後どのように見込まれるのかという点を述べ進めるものであった。
とはいえ、グルジア紛争を始めとする、コーカサスが昨今迎えた混乱は、石油のような天然資源をめぐる国際政治問題の中に位置づけられるものである。それは同地域の外交政策が特に、アメリカ、ロシア、そしてEUとの間で揺れていることからも窺うことができる。例えばロシアから独立した後のコーカサスの諸国家の多くは、ロシアの影響力を排除し、欧米・東欧との協力関係構築を目指した。しかし結果として、そのことはロシアとアメリカの覇権闘争を誘発し、アゼルバイジャンがロシアとコーカサスとの仲介役を買って出る二重外交や、ロシアに依存するしか選択肢のないアルメニアが孤立するなどの混乱を招くことにもなった。それに加え、コーカサスに多大な関心を抱くEUは同地域の諸国家のNATO加盟やWTO参加を始めとする軍事、経済面での協力関係の構築を奨励し、それがグルジア紛争の原因の一つともなった。
そのような中、2008年にはアゼルバイジャン、アルメニア、グルジア、ロシアで大統領選挙が行なわれ、各国は新政権の下で、内政と外交との間で更なる板挟みの状態に陥った。グルジア紛争は、ロシアとグルジアの新大統領による政策路線の打ち出しと、従来から見られたエネルギー開発、その輸送ルート確保、また民主化革命といった問題が絡み合う中で起こった、コーカサスの複雑多様な背景を反映する典型的な出来事であった。紛争によって黒海はロシアとNATOとの覇権争いの場となり、当のグルジアの内政は混乱を極めた。また世界規模の金融危機とも重なり、経済面に見られた混乱も大きい。
グルジア紛争後、関係諸国家の多くはコーカサスの安定を望み、アメリカ、ロシア、EUといった従来のパートナー候補に加え、トルコやイランがコーカサスと世界との仲介役として名乗りを挙げ始めた。しかしトルコのイニシアティブはEUの期待の下で、またイランのイニシアティブは反欧米政策に基づいたコーカサス・中央アジアでの地域影響力強化への指向の下で行なわれていることもあり、むしろこれまでの覇権闘争を更に複雑多様化させた。そうした中、グルジアに関して言えば、ロシアとの間にキリスト教・正教を通したパイプがあることが、数少ない光明の一つだと言える。グルジア正教には、ロシア首脳とコンタクトをとることが可能なイリヤ総主教がおり、またソ連時代には、グルジア正教会がロシアやウクライナの宗教家を育ててきたという背景もある。
複雑な地域性を持つコーカサスでは、今日、これまで以上に諸国家がバランス外交に尽力し、生き抜くことが求められている。しかし講演者は、先述したような宗教ネットワークへの期待も、紛争後のグルジアを始めとした同地域での和平構築に残された道であることを示唆し、講演を締めくくった。

(CISMORリサーチアシスタント 高尾賢一郎)
【共催】 同志社大学 一神教学際研究センター/神学部・神学研究科
講演会プログラム