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表現の自由と宗教的尊厳は共存できるのか? ─パリ、コペンハーゲンでの襲撃事件を踏まえて

公開講演会

表現の自由と宗教的尊厳は共存できるのか? ─パリ、コペンハーゲンでの襲撃事件を踏まえて

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日時: 2015年03月14日(土)13:00-15:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス良心館107教室
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩1分)
講師: 近藤 誠一(元・文化庁長官、ユネスコ大使、デンマーク大使/同志社大学客員教授)
菊池 恵介(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科 准教授)

【コメンテーター】
会田弘継(共同通信社・特別編集委員)
要旨:
 近藤氏は今回の事件をこの数百年間の歴史のうねりの中で捉えるべきであるとする。約400年前にヨーロッパで始まった近代化が世界に広がる中で、自由民主主義は人類の到達すべき最終形態と理解されてきたが、近年それが疑われる事態が生じている。ヨーロッパにはそのような理念を作り、実践し、経済発展を遂げてきた自負があり、それがある種のヨーロッパ至上主義として定着しているように思われる。その最たる植民地主義は現在では否定されるが、なお人種差別は心奥にあり、時に表出する。対してアフリカ、中東、アジアの人々には植民地支配によって虐げられた屈辱の歴史の記憶が残存する。政治、経済ではなく文化、教育で互いに人間性を養い平和を創造することを理念とするユネスコですら世界遺産登録の先進国偏重に途上国の不満が高まるなど、折りに触れ西欧支配への根強い被害者意識が噴出するのである。
 また西洋の自由民主主義は物質主義的で、精神性や宗教を過度に否定するように見え、今回も表現の自由を叫びつつその表出なのではないか。自由経済と民主主義は個々人が自由に欲望を満たすことを是とし、競争により資源を効率的に使うことで皆が幸福になるとする。それで世界経済は発達したが、自由には義務が伴うというモラルの部分が抜け落ちている。それゆえ理想であるはずの自由民主主義体制に対する不信感、絶望感が生まれ、それが先進国の若者がイスラム国へ向かう一因にも思える。過激派のテロは徹底的に非難されるべきだが、自由民主主義側の問題も考える必要があり、ヨーロッパの普遍主義的傾向に対して相対主義的な発想を持つ日本が果たし得る役割があるのではないかと述べた。
 菊池氏は今回の事件が本当に表現の自由への攻撃なのか問い直す。シャルリー・エブドは1968年に結成された権力批判と性的タブーへの挑戦を掲げる左派の新聞だったが、2000年代以降路線転換し、イスラームを標的にするようになった。紙面への批判に対しては革命以来の風刺の伝統の主張や他の宗教も批判してきたと反論している。フランスにおいても1972年の反レイシズム法などがあり、表現の自由は絶対ではない。つまり問題は表現の自由をめぐる文明間の対立ではなく、フランスである人々には許されないことが他の人々には許されるという二重基準にある。また風刺が社会に容認される根拠は、基本的にはそれが権力を批判する点にある。そこで誰が、誰を、どのようなコンテクス
トで表象しているのかが問題となる。コンテクストに関しては、国際的には西洋と非西洋の非対称な力関係が根底にあり、国内的には社会に蔓延する反イスラーム感情の問題がある。これらを踏まえると今回の事件は力関係を背景とし
た、表現の自由の名を借りたいじめと言える。
 ヨーロッパにイスラモフォビアが蔓延した理由は、グローバリゼーションを背景とする階層格差の拡大の問題、格差拡大を背景とする移民排斥の高揚、極右の台頭で既成政党との票争いが生じたことによるイスラームの問題化であ
り、70年代以降の経済危機の中で、より本質的な問題から国民の目を逸らすために国やメディアにより作り上げられた。またヨーロッパの排外主義の言説は西洋のリベラルな形をとり、世俗主義、男女平等、表現の自由は普遍的価値とされ、それで排除が行われる。シャルリー・エブドが受容されるのは人種という言葉を使わず、文化的差異を強調することで議論をかき立ててきたためであると指摘した。
 ヨーロッパとアメリカでは宗教への対応が異なり、また欧米内部にも近代への様々な問いがあるとし、その自己修正力が近代の特徴の一つに見えるとする。言論・表現の自由へのテロや弾圧は絶対に許されないのは前提だが、それは他者の自由や公序良俗などに取り囲まれており、その上で政教分離との関係を含め、あるべき形が問われている。またあの風刺画が宗教の尊厳の問題なのか問い直す必要がある。見ることで判断できることも報道の重要な役割だが、日本では殆ど議論されないまま多くの新聞が転載しなかったのは非常に残念で、その判断理由を読者に提示すべきだったと述べた。
 その後、小原氏を司会に登壇者によるパネル・ディスカッションが行われたほか、参加者との質疑応答の時間ももたれ、活発な議論がなされた。
(CISMOR特別研究員 朝香知己)
※入場無料・事前申込不要

【主催】同志社大学一神教学際研究センター
      同志社大学神学部・神学研究科
20150314プログラム 公開シンポジウム
20150314ポスター