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アパルトヘイト廃止後の南アフリカと原理主義

公開講演会

一神教学際研究センター・神学部・神学研究科共催 公開講演会

アパルトヘイト廃止後の南アフリカと原理主義

日時: 2007年06月30日(土)14:00-16:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館 礼拝堂
講師: ディビッド・チデスター(ケープタウン大学教授)
要旨:
はじめにチデスター氏は、自らの経験を踏まえつつ、南アフリカという場所が教えてくれる宗教に関する五つの論点(①宗教を定義することの政治性、②宗教理論の文化的、社会的、政治的な歴史性、③宗教がもつ人間化の機能、④国民形成における宗教の可能性と限界、⑤グローバル化との関係)について述べた。
つづけて同氏は、「原理主義」と呼ばれてきたものの多様性に注目しつつ、1970年代以降の南アにおける原理主義の変化について論じた。1970年代以降の南アでは、「原理主義」は「危機」をあらわす論争的な言葉として、人々の関心を集めつづけてきた。だが、それが「危機」とみなされる理由は、時期によって大きく異なっていた。
1970年代の原理主義的なキリスト教組織である“Jesus People”の人々は、宗教的に保守的である一方で、社会的にはリベラルな傾向が強かった。彼らは暴力、人種差別、不寛容などに批判的で、アパルトヘイト国家から警戒されていた。70年代のキリスト教原理主義は、アパルトヘイト国家に対する脅威であった。
1980年代には、アメリカの右翼的なキリスト教原理主義者(J・ファルウェルら)が、南アでの影響力を拡大した。この結果80年代の南アでは、道徳的・社会的・政治的にも保守的なキリスト教原理主義者が台頭した。これらの人々はアパルトヘイトを支持の立場だった。80年代のキリスト教原理主義は、アパルトヘイト国家を正当化するものだった。一方で80年代には、アパルトヘイトを批判し、イスラーム国家樹立を目指すイスラーム原理主義組織も現れつつあった。
1994年のアパルトヘイト廃止後、原理主義組織は、ギャング・麻薬の追放を目指す街頭活動や、政府の教育政策への反対活動を通じて、勢力を拡大していった。これら 90年代の原理主義は、民主政府の諸政策を神に背くものとみなし、政府への批判を強めた。90年代の原理主義は、アパルトヘイト後の民主体制を脅かすものであった。
最後に同氏は、今日の問題を論じた。なぜ我々は今なお原理主義のことを懸念し、それについて語り続けているのか。もし語りつづけるのであれば、南アの視点から、今日の状況を踏まえつつ、ローカルにかつグローバルに、どのような仕方で宗教原理主義を理解すべきなのか。同氏は、はじめに触れた五つの論点と結びつけつつ、これらの点を論じた。
チデスター氏の講演後、磯前順一氏がコメントを行った。磯前氏によれば、原理主義は単なる反動ではなく、国家・近代性と表裏一体の関係にある同時代的な問題である。磯前氏は、「我々」日本人とは無関係なものとして原理主義を考えるのではなく、原理主義を日本人自身の問題、内部の問題として引き受けていくことの重要性を指摘した。

(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 杉田俊介)
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