同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

> 公開講演会 >

アフガニスタンにおける和解と平和構築

公開講演会

アフガニスタンにおける和解と平和構築
What is necessary for Reconciliation and Peace Building?

日時: 2012年06月27日(水)9:30-17:35
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階 礼拝堂
講師: ―Mr. Numan Erdogan (Chairman of the Board, Afghan Turk Cag Educational NGO)
―H.E. Shaikh Iadena Mohammad (Member of Political Council of Islamic
Emirate of Afghanistan)
―H.E. Shaikh Abdulsalam Zaeef (President of Afghan Foundation / Former
Ambassador of Afghanistan to Pakistan)
―H.E. Dr. Ghairat Baheer (Head of Political Affairs at Hezbi Islami / Former
Ambassador of Afghanistan to Pakistan)
―H.E. Dr. Masoom Stanekzai (Advisor to the President on Internal Security,
Islamic Republic of Afghanistan)
要旨:
2012年6月27日、同志社大学一神教学際研究センターは、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科及び 同志社大学アフガニスタン平和・開発研究センターとの共催により、国際会議「アフガニスタンにおける和解と平和構築」を開催した。この会議は、タリバンの公式代表が初めて国際会議に正式参加したこと、またカルザイ政権側とタリバンの公式代表の双方が初めて国際会議で同じ席に着いたこと、というこの2点において世界で初めてのアフガニスタン和解への試みであった。本会議が実現した背景、会議での議論内容、そしてその成果の概要については、国内外の外交関係者の注目も高く、また海外主要メディアも大きく報道した。
会議は三部構成で運営した。第一部はゲストによる各々40分間の講演、第二部は討論、そしてまとめとしての第三部という内容で構成されていた。
第一部の講演に登壇したゲスト5名は、「和解と平和構築のために何が必要か」という共通テーマに基づき講演内容を
準備いただいた。
まず一人目はNuman Erdoğan氏による講演であった。Erdoğan氏はアフガニスタンに拠点を置くトルコ系の教育NGO団体であるAfghan Türk Çağ Educational NGOの代表として、アフガニスタンの教育復興⽀援活動に携わっている。講演では、団体の活動理念、現在アフガニスタン全土で展開している18校の学校の概要とその具体的教育成果、及びアフガン人に対する社会的人道的活動についての説明があり、地道な教育や社会的活動を通じた復興支援をアフガニスタンにおいて継続していくことの重要性を力説した。
二人目の講演者は、タリバン政権時代に複数の大臣ポストを務めた要人で、現在は「アフガニスタン・イスラム首長国」の政治委員会メンバーであるIadena Mohammad師によるものであった。前述のとおり、タリバンが公式代表を国際会議に送ったのはこれが世界初であった。同氏の講演では、タリバン政権時代の成果をいくつか挙げたうえで(イスラーム的な政治制度の確立、武器の回収、安全性の向上など)、とりわけ教育政策に重点を置いていたこと、なかでも女性の教育にも力を入れていたことなどが強調され、こうした事実にメディアが目を向けてこなかったことの問題も指摘した。また、米軍及びその同盟軍による派遣部隊、ならびにこれらと協力する現カルザイ政権を強く非難したうえで、タリバン側が対話に応じる用意はあるものの、そのためにはアメリカや国際社会が公正な正義を示す必要があると主張した。
三人目は、タリバン政権時代に駐パキスタンのアフガニスタン大使を務め、現在はアフガン財団の会長であるAbdulsalam Zaeef師による講演であった。同氏もまた米軍及びその同盟軍による派遣部隊の撤退を求め、アフガン側の政権に対しては、アフガン人の視点に立った和平戦略構築の重要性を唱えた。また、自身がタリバン政権崩壊後に米軍によって拘束され、グアンタナモ米軍基地などに収容された経験から、収容施設の閉鎖とアフガン人捕虜の解放あるいはアフガニスタン本国への送還を訴えた。
四人目の講演者であったGhairat Baheer氏は、現カルザイ政権でも一定のプレゼンスを示すヒズビ・イスラミ(イスラーム党)の政治委員長を務めている。和解に向けたプロセスにも積極的に関与している同氏は、和解に向けた案をいくつか示し、とりわけ次の総選挙に際しての具体的な提案を述べた。
最後の講演者として登壇したMasoom Stanekzai氏は、現カルザイ政権における安全保障に関する大統領顧問として、またアフガニスタン高等和平評議会の事務総長として、アフガニスタンの安定化に日夜尽力している。同氏の講演ではまず、アフガニスタンの安定化がきわめて複雑かつ困難な課題であることを改めて強調したうえで、それでもアフガニスタンが経験した過去の苦しみに戻らないためにも、安定に向けた取組を進めなければならないと述べた。
第二部では、5名の講演者に加え、Alexander A. Mejía 氏(UNITAR広島オフィス代表)、中田考氏(アフガニスタン平和・開発研究センター上級共同研究員)、Nazar Mohammad氏(アフガン財団計画・広報部長)の3名が加わっての討論を行った。
討論に先立ち、中田氏より、議論の土台となるいくつかの点についてのコメントが寄せられた。一点目は現政権の汚職と政治腐敗の問題の指摘、二点目はアフガン憲法について、単に形式的にシャリーアに基づくと規定するのではなく、シャリーアを現実的に適用するメカニズムを編み出すことの重要性を訴えた。またタリバン時代の失敗の経験だけでなく、その成功した経験をも踏まえ、それらも十分考慮に入れた上で今後のアフガニスタンのありかたを検討していく必要性や、タリバンを個々の活動ではなく一つの政治運動として捉えて交渉していく必要性についても主張した。
続いてMejía 氏は、UNITARのアフガニスタン支援や自身のアフガニスタン出張での経験を踏まえ、アフガン人のムスリムとしての共通項を軸に、疲弊したこの国の復興を考えていく重要性を唱えた。
両氏のコメントに続き、主に以下の点について討論を行った。
①アフガン南部での学校閉鎖をめぐる最近の報道について。学校閉鎖が同地域におけるタリバンの台頭と関係しているのではないかといった報道がなされていることに対しては、タリバンによるものではなく政治家同士の争いや汚職によるものである(Nazar Mohammad氏)という意見、また本件をめぐる異なる立場の代表団を結成して真相を明らかにする作業を通じて、協力関係を築くよい機会である(Stanekzai氏)といった意見が出された。
②互いの主張を聞いたうえでの和解に向けたポイントについて。Iadena Mohammad師は、前提条件として外国軍の撤退を挙げた上で、その条件が満たされれば和解は可能であるとの見解を示した。Baheer氏も、和解のためには外国軍の存在が鍵を握っている旨述べた上で、2014年以降も一定の非武装軍を置くとしている点を批判した。
Stanekzai氏は、一方の勢力あるいはグループだけでアフガニスタンが抱えるあらゆる問題を解決することはできないとして、対話可能なところから進めていくことが重要だと述べた。他方で、ボン会合の折にタリバンが対話の構成者として含まれなかったことの失敗を認め、タリバンの代表オフィスを設け、そこでタリバンとの対話が可能となるような相互
の信頼醸成に向けた仕組みを整えることの重要性も述べた。こうした条件を整えつつ、教育や健康といった公共サービスの確立に向けた協力関係、自爆テロ等による被害からの救済などを進めていく必要があると主張した。さらに同氏は、2014年の米軍撤退以後のアメリカとの協力にかかる戦略的パートナーシップ協定について、米軍が多くの中東諸国(カタールやサウディアラビアなど)や日本を含めたアジア諸国にも軍を駐在していることを挙げ、二国間の合意に基づく米軍の駐在は、現在の米軍及び外国軍による派遣部隊とは異なるものであると強調した。
このStanekzai氏による最後の強調点に対して、Zaeef師は、米軍は他の中東諸国とは異なり、既に多数のアフガン市民を殺したという近年の歴史があるゆえに、他の中東諸国と同列に置いて、アフガニスタンにも米軍の駐在を認めるという議論をすることはできないと批判した。その上で、唯一アメリカができることとしては、アフガニスタンの隣国に対してアフガニスタンへの将来的な介入を止めるように保証させることだと述べた。
2014年末とそれ以降の移行期において、米軍ではなくイスラーム諸国によって構成される移行期の平和維持軍が駐在することの可能性については、講演者5人とも否定的な見方を示した。
③汚職の問題について。Stanekzai氏は、アフガニスタン復興支援に充てられる資金のうち、アフガン政府の予算として充てられるのはわずか20%であり、残りの80%がアフガニスタンで活動する国連・NGO及びその下請機関であることの問題点を指摘し、汚職の問題はアフガニスタン政府だけに向けられるべきものではないことを主張した。その上で、確かに政府内にも汚職が蔓延していることを認め、アカウンタビリティの強化に向けた課題を述べた。
まとめの第三部では、冒頭でピエール・サネ特別招聘客員教授より、同氏のユネスコ及びアムネスティ・インターナショナルでの経験を踏まえ、アフガニスタンの平和構築に向けた展望を示し、現実的にはとりわけ移行期の安全保障のマネジメント、貧困問題、国家再建といった課題を解決していく必要性を述べた。
最後に、今回の参加者が合意可能な点についての討論を行い、2014年の移行期に向けて、汚職問題解決に向けた取組、アフガン人捕虜の問題解決条件の模索、外国軍撤退に向けた条件の合意といった点において一定の共通了解を得た。他方で将来のアフガン政権の具体的なありかたについての協議を進めることは、現時点では時期尚早であるとの意見も一部で出たことから合意には至らなかったため、今後の課題とすることとなった。

見原礼子(グローバル・スタディーズ研究科助教)
◆ゲストスピーカーによる講演
Mr. Numan Erdogan
H.E. Shaikh Iadena Mohammad
H.E. Shaikh Abdulsalam Zaeef
H.E. Dr. Ghairat Baheer
H.E. Dr. Masoom Stanekzai

【主催】
同志社大学一神教学際研究センター
同志社大学グローバル・スタディーズ研究科
同志社大学アフガニスタン平和・開発研究センター
※本会議に関するPajhwok Newsの報道に関する主催者コメントはこちら
講演プログラム
H.E. Shaikh Abdulsalam Zaeef 資料(英語)
H.E. Shaikh Abdulsalam Zaeef 資料(ダリ語)

Mr. Numan Erdogan 講演動画

H.E. Shaikh Iadena Mohammad 講演動画

H.E. Shaikh Abdulsalam Zaeef 講演動画

H.E. Dr. Ghairat Baheer 講演動画

H.E. Dr. Masoom Stanekzai 講演動画