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アフガニスタンの現状と課題――2014年を見据えて

公開講演会

第2プロジェクト 公開講演会

アフガニスタンの現状と課題――2014年を見据えて
Afganistan in 2014――Challenges and Opportunities

日時: 2011年10月24日(月)14:00-16:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス クラーク記念館 礼拝堂
講師: 高橋 礼一郎(駐アフガニスタン・イスラム共和国特命全権大使)
要旨:
 アフガニスタンでは、2001年末にカルザイ大統領による暫定政権が樹立されてから十年が経過した。しかし、未だに安定した政府や治安、経済は成立していない。高橋大使は、アフガニスタンが秩序を形成できない要因を挙げたうえで、今後の課題を明らかにしていった。
 アフガン政治を制約する要因は第一に、分断された多民族国家であるということである。およそ4つの主要な民族がおり、それらがさらに多くの部族に分かれ、混ざり合うことなくモザイク状になっている。多数派はパシュトゥーン人であるが、過去に中央集権的で強力な体制が成立したことはない。むしろアフガンの政治は長いあいだ、複雑な民族・部族政治のメカニズムのなかで、ゆるやかな地方ボスの連合体として運営されてきた。それを軍事力で制圧しようとする過去の試みはいずれも挫折している。国土は山によって大きく分断されており、軍事的に守りやすく攻めにくい「ゲリラ戦の天国」になっているからである。
それでは地方分権にしたらどうか、という意見がある。北は北部同盟にまかせ、南はパシュトゥーン人を中心にしたものにする。パシュトゥーン人が多いタリバーンとの権力配分も、そうしたなかで限定的に行ったほうが解決の道を見出しやすいのでは、という考え方である。しかし地政学的にみて、北は中央アジアの国々との繋がりが強く、西はイランの影響力を無視できない。南はパキスタンとの深い関係がある。そのように外国からの干渉が絶えないアフガンで地方分権をすれば、国家分裂の危険性が大きくならざるをえない。そのため、地方分権には慎重な声も聞こえてくる。
では、今後は何が課題となるのか。軍事的には、2014年末までに治安権限をすべて国軍と警察に移譲することが決定されている。NATOが撤退した後、現政権は自力で治安部隊を維持しながら経済の安定を達成しうるのか、という懸念が残る。現在アフガンで軍隊や警察などの治安部隊を維持するのに年間約60億ドルかかっている。しかし政府の年間の歳入は15~16億ドルでしかない。現在の状況は、外国軍へのサービス産業や外国からの支援で構成される「戦争経済」だからこそ維持されているにすぎない。もともとの基幹産業は農業であり、加えて鉱業の将来性は指摘されているが、アフガン経済の自立にはまだ時間がかかる。
政治的な課題としては、タリバーンとの和解が欠かせない。「ゲリラ戦の天国」であるアフガンにおいて完全な軍事的勝利というものはないからである。 和解の鍵はパシュトゥーン人の政治的基盤をどう再構築し、そのなかでタリバーンとの関係をどう定めていくか、という点にある。ところが現政権は、2001年にアメリカがタリバーンを打倒したときの権力構造をそのまま引き継いでおり、有力閣僚の多くはパシュトゥーン以外の、いわゆる北部同盟のリーダーたちで占められている。カルザイはパシュトゥーン民族の名門部族長の息子であり、パシュトゥーンを代表しているが、政権の基盤の大きな部分は、それ以外の軍閥リーダーとの関係に置かれている。ゆえにタリバーンとの交渉には、まだ不透明なところが多い。
タリバーンと和解する際に国際社会から要求される条件としては、国際テロリズムと関係を断つことが挙げられる。もともとタリバーンは、国際テロリズムへの志向をもっていないので、2014年の選挙を念頭に権力配分を再編成していく過程で、彼らをうまく取り込めれば解決できるかもしれない。その道のりにおいては、タリバーンに影響力をもっているパキスタン、パキスタンに影響力をもっているアメリカが重要な役割を果たしうるだろう。
日本は、アフガニスタンには軍隊を出していないし、これまでも多彩な援助をおこなってきた。例えば、空港のターミナル建設や市内の道路整備、警察官への柔道の指導、食糧支援などである。ソフトな分野では、バーミヤン遺跡の壁画保存への支援や、JICAのプログラムによる行政官育成のための研修等を日本で始めており、同志社でもこのスキームのもとで本年4人の留学生を受け入れている。今後もこのような形で、アフガニスタンの人々が自力で持続可能な経済発展ができるように、長い目で見た支援が日本に期待されているといえるだろう。

(CISMOR特別研究員 藤本龍児)
※日本語講演・入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学グローバル・スタディーズ研究科/アフガニスタン平和・開発研究センター
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