同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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イスラームと西欧近代の問題 ―共約不可能性と共存可能性を突き詰める

公開講演会

CISMOR 公開シンポジウム

イスラームと西欧近代の問題 ―共約不可能性と共存可能性を突き詰める

日時: 2012年09月15日(土)14:30-17:30
場所: 同志社大学室町キャンパス 寒梅館ハーディホール
講師: 内藤正典(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授)
中田考(アフガニスタン平和・開発研究センター客員上級共同研究員)
要旨:
 9⽉15⽇、CISMOR公開シンポジウム「イスラームと⻄欧近代の問題」が開催された。シンポジウムは内藤正典⽒と中⽥考⽒の講演を中⼼とするもので、⻄洋的モデルをイスラームに適⽤することの不可能性を確認しつつ、欧⽶社会とムスリムの共⽣の可能性を探る機会となった。
 内藤⽒は「イスラームと世俗主義―共約不可能性から共⽣への模索」と題して講演した。はじめに内藤⽒は、この主題に関わる具体的争点として、スカーフ論争、アフガン問題、シリア問題をあげた。内藤⽒によれば、中でもスカーフ論争において、イスラームと世俗主義の共約不可能性は顕著である。世俗主義国家は、私⼈の宗教的表象を公的領域に持ち込むことを否定する。フランスでは公的な場所に宗教的なシンボルを持ち込むことを禁⽌する法案も成⽴した。そこで意識されているのはムスリムのスカーフであるが、ムスリムにとってスカーフは宗教の表象ではない。ここで議論が完全に⾷い違っている。
 次いで内藤⽒はより原理的な争点を提⽰した。第⼀の争点は法である。世俗主義国家における⾄⾼の法は⼈の法(憲法)だが、ムスリムにとっては神の法である。第⼆の争点は国⺠国家である。覚醒したムスリムは、国⺠とナショナリズムに基礎をもつ国⺠国家を拒否しつつある。第三の争点は世俗主義と進歩史観である。⻄欧諸国は、世俗主義にたつ国家制度の成⽴を「進歩」、イスラーム的制度を「時代遅れ」と⾒なす。しかしムスリムは近代思想を否定し始めている。これらのゆえに、ムスリムに近代⻄欧的モデルを押しつけても、対⽴が深まるだけである。
 最後に内藤⽒は共⽣の可能性について⾔及した。内藤⽒によれば、1)⻄欧もムスリム社会も、近代⻄欧を擬制した国⺠国家建設が限界にきたことを認識すること、2)⻄欧は論理的に整合しない「争点」を提⽰してムスリム社会を挑発するのをやめること、3)⻄欧は主権国家の論理によって他者を侵略・⽀配しようとしないこと、4)ムスリム社会は、疑似⻄欧近代国家の導⼊で⽣じた夾雑物を、正しいイスラーム的論理によって除去・変更し、イスラーム的な統治システムの構築を⽬指すこと、以上四点に⽬途をつけることが、共⽣の前提であるという。
 つづけて中⽥⽒が、「全ては政治、全ては宗教」という題で講演した。中⽥⽒によると、イスラームはしばしばいわれるような意味での「政教⼀致」ではない。すべての中⼼にあるのは神だが、社会機能は早くから分化していた。スンナ派の理解によれば、預⾔者ムハンマドの死後、絶対的な権威をもった⼈物は存在しなくなり、⽀配者は世俗の事柄を決めるだけになる。
 この意味でイスラームは早い段階で「政教分離」していた。ただ、「政教分離」のあり⽅が⻄洋とは異なるのである。
 また中⽥⽒によれば、新聞等で「イスラーム」といわれているものと、真のイスラームは別のものである。たとえばムスリム同胞団やイスラーム諸国会議機構は、イスラーム的ではなく、むしろ反イスラーム的である。イスラームは、現実のムスリムの⾏動とは関係なく、神の意志として客観的に存在する。では、イスラームとは何か。それは神への服従である。純粋な⼀神教であるイスラームは、神ならざるものに従うことを拒否する。しかし現代においては、国家への服従がもはや慣習化し、⼈々は無⾃覚のうちに国家に従うようになっている。出⽣届が典型的に⽰すように、今⽇では⼈々の⽣のすべての領域が国家の管理の下にある。これは新しい状況である。こうした状況がある以上、現代においては国家を否定しないかぎり、真のムスリムになることはできない。いいかえると、現代世界では、政治を離れてイスラームはありえない。イスラームを守るためには、イスラームが政治を変えるほかない。以上のように⼒説することによって、中⽥⽒は講演を締めくくった。
 また内藤⽒、中⽥⽒による講演の後、両⽒に⾒原礼⼦⽒、塩崎悠輝⽒を加えた四名により、パネルディスカッションが⾏われた。なお当⽇は200⼈近くが来場し、関⼼の⾼さをうかがわせた。  (CISMOR特別研究員 杉⽥俊介)
イスラームとの共生を考えるときに、他の一神教との関係以上に困難なのは西欧近代が創りだした世俗主義との関係である。非イスラーム世界では誰もが疑わず、イスラーム世界では誰も理解しない世俗主義との関係を軸に、新たな共生の方向性を検討していく。

コメンテーター:
 見原礼子(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科助教)
 塩崎悠輝(同志社大学神学部助教)
司会:
 小原克博(同志社大学神学部・神学研究科教授、CISMORセンター長)


※入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科