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イスラームにおける諸宗教間対話への試み

公開講演会

国際シンポジウム

イスラームにおける諸宗教間対話への試み

日時: 2009年01月24日(土)10:00~18:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス クラーク記念館 クラーク・チャペル、新島会館
要旨:
 国際シンポジウムは、同志社大学黒木保博副学長と、サウジアラビアのアルイマーム・ムハンマド・イブン・サウド・イスラーム大学スライマン・アブドゥッラー・アバルカイル学長の挨拶によって始められた。そこでは共通して、この国際シンポジウムが、今後の日本とサウジアラビアにおける実り多き対話の出発点になるだろうと述べられた。
 アブドゥルカリーム・ハマド・アッサイグ氏は、まず寛容や調和、同胞愛や奉仕の精神など、サウジアラビアの国民性の核となっているイスラームの教義と、日本の国民性の中心となっているサムライの精神には共通する部分が多いことを指摘した。また、サウジアラビアではアブドゥッラー現国王によって「対話文化」が築かれ、それが個人や組織のあいだに浸透し、多くの対話組織がつくられてきたこと、「現代イスラーム研究・文明間対話センター」は、その対話組織の代表的な機関であり、対話と共存の精神を広げるべく、さまざまな努力をしてきたことなどが紹介された。
 ムハンマド・ハサン・アルジール氏は、アブドゥッラー現国王の文明間対話への呼びかけについて詳しく述べた。国王は、文明間対話の前提として次のような基本事項を提示している。①人類の危機への配慮と救済を神に求めることの重要性、②すべての宗教者が出席できる会議、③人類の平等と価値およびモラルの呼びかけ、④知性と叡智をともなう対話が最善の方法であるということ、⑤過激思想からの挑戦に立ち向かうこと、⑥無知と間違った思想からの挑戦に立ち向かうこと、⑦信頼と確信をもって価値観を共有すること、⑧イスラーム国家のメッセージとして対話を呼びかけること、⑨相違を原因として争ってはならないということ、⑩価値観の喪失と誤解による被害に立ち向かうこと、⑪対話は問題解決のための共通の要素であるということ。これらの基本事項を確認しながら氏は、アブドゥッラー現国王が設立した組織や、実際に参加した会議、そこでの声明などを紹介した。
 森孝一氏は、まず同志社大学神学部と一神教学際研究センターが、その研究領域を、キリスト教神学だけではなく、他の二つの一神教すなわちイスラームとユダヤ教にまで拡げているという意味において、世界でも類のない研究機関であることを説明し、これまでにおこなってきた諸宗教間対話の内容を紹介した。同志社大学における対話が他よりも優れているのは、三つの一神教の研究者が一つの場で仕事をし、継続的に対話をおこなっている点にある。しかも同志社大学がある京都は、日本でもっとも宗教が集まっている場所であり、仏教者との対話も活発に、かつ継続的におこなうことができている。
 このような一神教研究を日本において進めることの意味とメリットは、大きくわけて二つある。一つは、日本にたいする貢献であって、それは日本社会において不足している一神教についての正確な情報を提供していくことである。もう一つは、世界にたいする貢献である。日本は、一神教世界における対立と抗争の歴史の外に位置しているので、中立的な研究をおこなうことが可能であり、三つの一神教の研究者が同席し対話できる場を提供することが可能である。
 そして、宗教間対話においては、「これから一緒に仲良くしていきましょう」というようなサロン的な対話では不十分であって、互いの相違点をしっかりと認識しなければならない。そのうえで、自分たちの宗教伝統のなかで何が対話を妨げているのか、どういう要素を変革していけば対話や共存を実現することができるのか、ということを考えなければならない。森氏は、以上のことを、これからの宗教間対話で肝要なものとして強調した。
 サミール・ヌーハ氏は、写真を用いながら、日本的観点から見たアラビア半島の改革思想の発展について自説を述べた。サウジアラビアの歴代の王は、ムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブの思想に基づいて国を治めてきたが、これまで「ワッハーブ派」という言葉は、西洋世界では罪や欠点の代名詞として用いられてきた。そうした見解は改められる時機に来ている。
 氏は、日本における徳川時代の宗教の役割とサウジアラビアにおけるワッハーブの思想の役割には共通性があるという。たとえば、徳川家康が自らを神格化することにより宗教的基盤を確立しようとしたこととムハンマド・イブン・サウードがワッハーブを保護することにより宗教的正統性を獲得したこと、あるいは神道におけるお伊勢参りとイスラームにおける聖地マッカ巡礼、またあるいは神社におけるお清めとムスリムの礼拝前のお清めなど、である。そして氏によれば、明治維新につながる徳川時代末期の宗教的革新と復興の運動は、サウジアラビア建国につながるワッハーブ運動に通じるものがある。ワッハーブによる「アッラー以外に神はない」という「タウヒード(神の唯一性の信仰)」への呼びかけが、アラビア半島の大部分を統一するうえで大きな役割を果たした。それと同じように、明治維新においては、仏教や神道が日本人の精神を統一する役割を果たした、ということである。ワッハーブの思想は、現在のサウジアラビア王国の指導者も支持し続けており、それがイスラーム改革運動につながっている。現在のイスラームを理解するためにも、ワッハーブの思想と意義を正しく理解しなければならない。
 最後に氏は、イスラームにおける慈悲は決してムスリムだけに向けられたものではなく、全世界に向けられたものであり、そうであるがゆえにアブドゥッラー国王は、対話と寛容の必要性を全人類に呼びかけているのだということを強調し、発表を終えた。

同志社大学特別研究員(PD) 藤本龍児
【セッション1(公開)】
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『開会の言葉』
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黒木 保博(同志社大学 副学長)
Sulaiman Abdullah Abalkhail(アルイマーム・ムハンマド・イブン・サウド・イスラーム大学 学長)
■ 司会
小原 克博(同志社大学大学院神学研究科 教授)
■ 発表者
1.1 Abdulkareem Hamad Al-Sayegh
(現代イスラーム研究・文明間対話センター 所長)
1.2 Mohammad Hassan Al-Zeer(アラブ・イスラーム学院 学院長)
1.3 森 孝一
(同志社大学 一神教学際研究センター センター長)
1.4 Samir Nouh
(同志社大学高等研究教育機構・特定任用研究員・教授)

【セッション2(非公開)】
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『開会の言葉』
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黒木 保博(同志社大学 副学長)
Sulaiman Abdullah Abalkhail(アルイマーム・ムハンマド・イブン・サウド・イスラーム大学 学長)
■ 司会
Samir Nouh(同志社大学高等研究教育機構・特定任用研究員・教授)
■ 発表者
2.1 小原 克博(同志社大学大学院神学研究科 教授)
2.2 Mohammad Hassan Al-Zeer
(アラブ・イスラーム学院 学院長)
2.3 四戸 潤弥(同志社大学大学院神学研究科 教授)
2.4 Abdulkareem Hamad Al-Sayegh
(現代イスラーム研究・文明間対話センター 所長

【共催】
同志社大学一神教学際研究センター、同志社大学神学部・神学研究科
アルイマーム・ムハンマド・サウド・イスラーム大学
在日サウジアラビア王国大使館付属 アラブ・イスラーム学院
アブドゥルアシーズ国王研究古文書基金