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イスラームの相互扶助はいかに発揮されるか?―東日本大震災とトルコ東部地震での活動

公開講演会

プロジェクト2公開シンポジウム

イスラームの相互扶助はいかに発揮されるか?―東日本大震災とトルコ東部地震での活動

日時: 2012年02月25日(土)15:00-17:20
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階礼拝堂
講師: 近内みゆき(難民を助ける会[AAA]プログラム・コーディネーター)
イディリス・ダニシマズ(グローバル・スタディーズ研究科嘱託講師)
要旨:
 ⼤きな⾃然災害が発⽣したとき、被災地が先進国か発展途上国かを問わず、国際的な救援・⽀援活動が実施されることが、近年めずらしいことではなくなってきている。その際に、政府機関と並んで重要な役割を担うのが、⺠間の⾮営利組織(NPO)である。国境を越えて、「相互扶助」の精神はどのように発揮されるのか。ともに2011年に発⽣したトルコ東部地震(10⽉23⽇)と、東⽇本⼤震災(3⽉11⽇)の体験を軸に、2⼈の講師が報告を⾏った。
 この講演会中、最もよく紹介された⾔葉は「キムセヨクム」(Kimse Yok Mu)であろう。トルコ語で「誰かいませんか」を意味するこの⾔葉は、1998年のマルマラ地震(トルコ⻄部地震)以来、同国で救援・⽀援活動を象徴する⾔葉となっている。マルマラ地震をきっかけに結成された、トルコを代表する⺠間の⼈道⽀援団体の名称も「キムセヨクム」である。
 講師の1⼈、近内みゆきさんは、トルコ東部地震の中⼼的な被災地であった同国のワン県で、で、NPO「難⺠を助ける会」の3名からなる派遣隊の⼀員として⽀援活動に従事した。前述のキムセヨクムや、災害時通訳の団体「アーチ」と協⼒しながら、主に現地の被害状況・ニーズ調査と⾷料・⽣活必需品の配付に携わった。そのさなか、⼤きな困難が近内さんら⽀援チームを襲う。2度⽬の地震が発⽣し、拠点のホテルが倒壊したのである。「キムセヨクム」のかけ声のなか、約6時間後に近内さんは救出されたが、50名が⽣き埋めとなった現場で、多数が命を落とした。そのなかには、⽀援チームの⼀員である宮崎淳さんも含まれていた。こうした⾃らの被災体験も交えながら、近内さんは多数のスライドを⽤いて、⽀援活動の様⼦を説明した。その際に特に強調したことは、①現地の⽀援団体や、被災者と積極的にコミュニケーションを取って、⽀援のニーズを正確に把握することの必要性と、②被災者同⼠の間で、⾃発的に発揮される「助け合い」の重要性である。
 東⽇本⼤震災でも、国内外の多くの救援・⽀援チームが活動した。「キムセヨクム」もその⼀つである。同志社⼤学講師のイディリス・ダニシマズ博⼠は、このキムセヨクムが、在⽇トルコ⼤使館や⽇本・トルコ⽂化交流会などとの協⼒を通じて⾏った、被災地⽀援に参画した。その際に特に重視したのが、⼦どもたちへの⽀援である。現地での救援活動が⼀段落した後には、トルコ航空の協⼒を得て、60名がトルコに招待された。精神⾯のケアが⽬的で、被災児童たちは、現地児童との交流を中⼼に、トルコの⽂化や⾃然なども満喫したという。また、キムセヨクムの協⼒も得た在⽇トルコ⼈は、被災者の⼦供たちのために奨学⾦制度を設けており、仙台においてトルコ⼈経営のインターナショナルスクールの各クラスの4分の⼀の⽣徒の授業料を全額負担している。
 東⽇本での活動以前にも、キムセヨクムは、2004年のスマトラ島沖地震を嚆⽮に、パレスチナやレバノン、ペルー、バングラデシュ、スーダン、ハイチなど世界各地で、⼈道⽀援の実績を積み重ねてきた。トルコ国内での貧困者⽀援や教育⽀援に対する評価も極めて⾼い。その活動の根底には、イスラームで義務とされ美徳でもある「相互扶助」の精神がある(なかでも、サダカ=困窮者のための喜捨は、ムスリムとしての良い⾏動の⼀つとして認められている)。同時にダニシマズ博⼠は、理由付けは異なれど、どの国でも、相互扶助を推奨する精神が存在することを強調した。災害は常に⼤きな悲しみを残すが、キムセヨクムが⽰すように、国際的な「相互扶助」が実現するきっかけにもなる。こうした動きが、貧困をはじめとした⼈類社会の根本的な問題の解決につながりうることを、博⼠は⼒説した。
 その後、同志社⼤学の内藤正典教授の司会でパネルディスカッションが⾏われ、フロアからの質問への応答も交えて、両講師の講演内容を踏まえた活発な議論が⾏われた。  (CISMOR特別研究員 中⾕直司)
【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学グローバル・スタディーズ研究科
同志社大学神学部・神学研究科
※入場無料・事前申込不要
講演会プログラム