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ダン・ブラウン最新刊『インフェルノ』を10倍楽しむ ─美術史および宗教学の視点から─

公開講演会

ダン・ブラウン最新刊『インフェルノ』を10倍楽しむ ─美術史および宗教学の視点から─

日時: 2014年01月29日(水)16:00-18:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館3階礼拝堂
講師: ― 竹下 ルッジェリ・アンナ(京都外国語大学 外国語学部 イタリア語学科 准教授)
― 小原克博(同志社大学 神学部 教授/一神教学際研究センター長)
要旨:
2014年1月29日、京都外国語大学准教授の竹下ルッジェリ・アンナ氏とCISMORセンター長の小原克博氏による公開講演会「ダン・ブラウン最新刊『インフェルノ』を10倍楽しむ―美術史および宗教学の視点から」が開催された。『インフェルノ』は、『ダ・ヴィンチ・コード』で知られる作家ダン・ブラウンの最新刊で、フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールを主な舞台とするスリリングな物語が展開されている。竹下氏と小原氏は、主に美術史と宗教学の視点から、この作品を引き立てている西洋美術、キリスト教、さらにはイスラームに関する多様な情報について確認し、『インフェルノ』の背景世界へと迫っていった。
 はじめに竹下氏が「ダン・ブラウンの『インフェルノ』から見たイタリアの文学と美術」と題して講演した。竹下氏はまず、ダンテ(1265-1321)の長編叙事詩『神曲』、とりわけ『地獄篇』と、『インフェルノ』(イタリア語で「地獄」)の詳細な関わりを確認した。次いで竹下氏は、『インフェルノ』の中に、『神曲』についての不正確もしくは一面的な記述がいくつかあると指摘した。たとえば、「影」という言葉の理解、「中立を標榜する者」に与えられる場所、『地獄篇』が描きだす世界が教会に通う者を増加させたという記述などがそれである。とはいえ『インフェルノ』エピローグの「ダンテの詩は地獄の惨状というより、どんな過酷な試練にも耐える人間の精神の力を描いたものだ」という言葉は、ブラウンがダンテの詩の本質的な部分を理解していることを示しているという。この他、竹下氏は、ボッティチェルリ『地獄の見取り図』、ヴァザーリ『マルチャーノ・デッラ・キアーナの戦い』とそこに記された“Cerca trova” という文字、500人大広間、ヴァザーリの回廊、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ヴェネツィアのサン・マルコ寺院など、『インフェルノ』に登場するイタリアの絵画や建築について、スライドを用いて紹介、解説した。
 竹下氏につづいて、小原氏が「ダン・ブラウン『インフェルノ』の世界観を読み解く」と題する講演を行った。小原氏は、中世ヨーロッパにおける地獄・天国・煉獄の観念や終末論について、日本や現代文化との関わりにも言及しつつ解説し、それらキリスト教的な諸概念が『インフェルノ』の作品世界において重要な役割を果たしていることを指摘した。また『インフェルノ』はイスタンブール、すなわち歴史的に東西のキリスト教とイスラームそれぞれの影響を受け、東西文明の接点となってきた街をひとつの舞台としているため、キリスト教とイスラームという一神教学際研究センターがこれまで扱ってきたテーマとも関わってくる。たとえば小原氏によれば、『インフェルノ』88章の主人公ラングドンの言葉からは、そうしたキリスト教とイスラームの、図像に対する考え方のちがいや聖なるものの描き方の違いを垣間見ることができる。すなわちキリスト教、特にカトリックと正教会は神や聖人を絵画やイコンで描写することを好むが、イスラームは聖なるものを絵画として表現することを禁じ、飾り文字や幾何学模様で表現する。こうした図像に対する考え方の違いは、以前、一神教学際研究センターでも取り上げた2005-2006年の預言者ムハンマドの風刺画問題の重要な背景になっている。そして小原氏は最後に、『インフェルノ』が人口爆発による破局という倫理的課題にどう応答しうるかという問いを投げかけていると指摘し、講演を締めくくった。
 当日は100名を超える来場者があり、人々の関心の高さをうかがわせた。(CISMOR特別研究員 杉田俊介)

※入場無料、事前申込不要

【主催】 同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
【共催】 同志社大学大学院 博士課程教育リーディングプログラム
「グローバル・リソース・マネージメント」
     同志社大学 神学部・神学研究科
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