同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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トルコ−西欧とイスラーム世界との架け橋としての役割

公開講演会

第2プロジェクト 公開講演会

トルコ−西欧とイスラーム世界との架け橋としての役割
Turkey as a Bridge between Islam and the West

日時: 2010年01月30日(土)13:00 - 15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3F 礼拝堂
講師: セリム・セルメット・アタジャンル閣下(駐日トルコ共和国特命全権大使)
要旨:
 講演者であるアタジャンル閣下はこれまで母国トルコに加え、ヨーロッパや東南アジアで長く公務に携わってきた人物である。氏の報告の中心は、トルコが東洋と西洋、アジアとヨーロッパ、イスラーム世界とキリスト教世界の間に位置し、それらの「文明の衝突」を克服する架け橋となる国であることを述べるものだった。
 氏はまず現代世界におけるトルコの位置付けを述べることから始めた。第二次大戦後の冷戦構造は世界を東と西に分けたが、そこで起こる出会いは敵か味方かという政治的イデオロギーに基づいた視点を備えるものであった。1970年代にそうした緊張が緩和し始め、80年代にはベルリンの壁やソ連の崩壊が起こった。しかし90年代になると「原理主義」や「テロ」と呼ばれる勢力が台頭し、その中で人は「文化」を包み込むより包括的な概念である「文明」に属するものとされた。それは「文明」間の新たな敵視を人々に促すものとなってしまい、特に9.11を経て、世界の「イスラーム敵視」が強まったと言える。アメリカのオバマ大統領はトルコのアンカラ、またエジプトのカイロを訪れてそのような認識の是正を訴え、イスラーム教徒がアメリカの敵ではないと述べた。「文明の衝突」が我々に突きつけたものは、人類の歴史が緊張と対立の連続を繰り返し、様々な「文明」の間にあたかも階級があるかのような主張であったと言える。
 そうした諸文明の間に位置するのがトルコであり、氏によれば同国はイスラーム国、世俗主義国家、民主主義国家として、文明間の架け橋となることを目指してきた。その基本的な姿勢は「多様性の中の調和」と表されるものであり、それは多くの民族や宗教が共生していた前身のオスマン帝国から引き継がれたものである。現在のトルコ建国の父であるアタテュルクは「文明」を一つの海、「文化」をそこに注ぎ込む河川の一つと考えていた。そうした理念の実現の一つが2005年に始まった「文明の同盟」の提唱であり、牽引者であるトルコのエルドゥアン首相とスペインのサパテロ首相はそれぞれがイスラームとキリスト教を代表する立場として会合を重ねてきた。「同盟」はイスタンブールやニューヨークなどで定期的に会議を催し、その活動は国連事務総長からも支持を受けるほどに評価された。「同盟」の基本理念は文化的な排他主義を拒否し、人間の尊厳を世界の価値観の最上位に位置付けることにあり、国家間協力に限らず、様々な国際機関、市民社会のネットワークの構築を目指している。
 その他、トルコは国家固有の外交政策においても建国以来の「国内外の平和」を旗印に、アジア、東欧、西欧における紛争調停や文化交流に努めてきたという。氏はその中心にあるのがグローバル化した世界の一国としての人道主義に基づいた外交だとした。かつて日本が東洋と西洋の架け橋を目指したことを知った上で、氏は最後に「トルコにおける日本年」である2010年、学術交流を始めとした多様な交流がトルコと日本の間に起こることが期待できると述べて、講演を締めくくった。          

(CISMORリサーチアシスタント:高尾賢一郎)
※英語による講演となります(逐次通訳あり)。 ※この講演会は事前申込が必要です。申し込み期間終了、締め切りました。 お問合わせ先:075-251-3972(CISMOR事務局)
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