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ハラール食品のグローバリズム:イスラームとハラール市場に対する政府の規制

公開講演会

ハラール食品のグローバリズム:イスラームとハラール市場に対する政府の規制

日時: 2014年03月06日(木)14:00-17:15
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館3階礼拝堂
講師: ヨハン・フィッシャー、ロスキレ大学准教授
フローランス・ベルゴオ=ブラクレー、地中海ヨーロッパ比較民族学研究所(フランス国立科学研究センター)主任研究員
要旨:
2014年3月6日、早稲田大学重点領域研究機構アジア・ムスリム研究所主催、同志社大学一神教学際研究センター共催の公開ワークショップ「ハラール食品のグローバリズム―イスラームとハラール市場に対する政府の規制」(Islam and the State Regulation of Halal Market)が開催された。ハラールとは、イスラーム法において「合法」、「許された」モノやコトを指す。近年ハラール食品をめぐる巨大な市場に、世界的な関心が集まっている。本ワークショップでは、講師としてハラール食品に関する社会経済的研究で活躍する二名の人類学者―Johan Fischer氏(デンマーク、ロスキレ大学准教授)、Florence Bergeaud-Blackler氏(フランス、地中海ヨーロッパ比較民族学研究所主任研究員)―が招かれ、ハラール食品の生産・流通と、それに対する政府・国際機関の規制について議論された。
 Fischer氏は、“Global Halal Production, Trade and Regulation”(グローバルな市場におけるハラール製品の生産・貿易・規制)と題し、マレーシアとシンガポールの事例を中心に講演した。近年の大量生産はハラール性が疑わしい製品―含有成分や、原料購入から製造販売に至る過程も問われる―を増加させた。この結果、ハラールの規制および認証を求める声が世界的に強まっている。こうした状況の中、マレーシアとシンガポールは他国に先駆けてハラールに関する規制、認証を国家レベルで行い、世界のハラール市場にも影響を与えている。マレーシアでは、イスラーム復興、経済成長、ムスリム中間層の誕生、都市化と産業化、そしてマレー系ムスリムと中国系住民からなる民族構成を背景に、1970年代以降、ハラールへの関心が強まった。一方、隣国シンガポールでは、中国系が多数を占め、マレー系ムスリムは少数派である。したがって国内のハラール市場は小規模であり、ハラールの規制や認証においても周辺諸国の大規模なハラール市場が強く意識されている。またFischer氏は、シンガポールの「ハラール・トレーニング」の体験談や 、スーパーマーケットにおけるハラール食品とノン・ハラール食品の分離のあり方についても紹介した。
 Bergeaud-Blackler氏は、“The Interntion-al Development of Halal Food Standards: the European Case”(ハラール食品基準の国際展開―ヨーロッパの事例)と題し、現代におけるハラール基準の世界的展開について講演した。1980年代、オーストラリアとニュージーランドは、中東のムスリム向けに屠畜方法を変えた食肉を輸出するようになった。これが国際的なハラール市場のはじまりである。1990年代には、ムスリムが少数派である地域でハラール食肉市場が成長。2000年代にはハラール認証がムスリム向け食品の「パスポート」となるに至った。ただしハラールの基準はさまざまで、現在では、屠畜方法等をめぐって100以上のハラール基準が存在する。グローバルな統一基準を設ける動きもあったが、地域間の事情の違いなどから成功していない。ハラール基準に関する5つの国際機関―The World Halal Council(カナダ、アメリカ)、Interna-tional Halal Integrity Alliance(マレーシア)、Gulf tandard Organization(湾岸)、Standard and Metrology Institute for Islamic Countries(トルコ)、European Committee for Standardization(EU)―も、唯一の基準ではなく、独自性のある基準によって特徴を出し、相対的優位性を得ることを目指している。Bergeaud-Blackler氏は、ハラール基準の統一は、イスラーム世界の多様性を単一化するのと同じほど困難であると結論づけ、講演を締めくくった。
 ワークショップでは、小島宏氏(早稲田大学アジア・ムスリム研究所所長)司会による、質疑応答の時間も設けられた。当日は70名ほどの人々が来場。熱心にメモを取る姿が多く、日本でも食のハラールに対する関心が強まりつつあることがうかがえた。(CISMOR特別研究員 杉田俊介)
【概要】
 イスラームの法で「合法」、「許された」モノやコトを意味するのがハラールである。ハラール食品はムスリムが安心して食べることのできるモノで、近年、その巨大な市場に世界的な関心が集まっている。
 このワークショップでは、デンマークとフランスからハラール食品に関する社会経済的研究の最前線で活躍する二名の文化人類学者を招聘し、イスラームとグローバルな市場経済が交差するハラール食品の生産・流通とそれに対する政府・国際機関の規制について、ヨーロッパと東南アジアの事例を中心に議論を行う。

【プログラム】
14:00-15:00 講演「グローバルな市場におけるハラール製品の生産・貿易・規制」
          ヨハン・フィッシャー
15:00-15:30  質疑応答
15:30-15:45  休憩
15:45-16:45  講演「ハラール食品基準の国際展開:ヨーロッパの事例」
          フローランス・ベルゴオ=ブラクレー
16:45-17:15  質疑応答


※入場無料、事前申込不要
※英語講演、逐次通訳あり

【主催】早稲田大学重点領域研究機構アジア・ムスリム研究所
【共催】同志社大学一神教学際研究センター
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