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一神教と国際政治 ―米大統領選挙を中心に

公開講演会

一神教と国際政治 ―米大統領選挙を中心に

日時: 2012年07月22日(日)13:30-15:45
場所: 同志社大学今出川キャンパス明徳館1階 M1教室
講師: 渡辺将人(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
要旨:
  渡辺准教授は、アメリカ⼤統領選と宗教要因と題して、アメリカの選挙および内政の⽂脈での宗教の影響について論じた。2012年の⼤統領選挙は⼀義的には経済中⼼の選挙だが、背後にはオバマが⽂化的、出⾝地をめぐる地理的な意味で、対するロムニーも宗教的に、平均的なアメリカ⼈ではないゆえに⽂化的な⽂脈もある。また両党の動向を⾒ると、⺠主党では2008年にリベラル派が反ヒラリーでオバマを擁⽴し勝利したゆえに、オバマはリベラル派を切ることができない。彼は2010年の中間選挙の敗北から経済争点で中道化するが同性愛などの社会争点では、リベラルな⽴場も維持している。これは共和党や過去の⺠主党⼤統領との差異化を狙ったものと理解できる。しかし、2011年秋⼝には翌年の再選を睨んで中道化路線を修正し、雇⽤対策法案など労働者寄りの経済ポピュリズム路線に転換した。対して共和党は、2010年9⽉に出した「アメリカへの誓約」の冒頭項⽬で社会問題に全く⾔及せず、⼩さな政府を⽬指す経済的アジェンダを並べている。これは⼩さな政府の問題に特化して経済で保守団結を図るという⽅向性である。その根底には、社会政策、外交政策を軸にロン・ポールとそれ以外へのティーパーティー分裂に象徴される共和党内部分裂懸念がある。
 ロムニーはモルモン教徒であり、個⼈的には家族の価値を重視するが、マサチューセッツ州知事としてこのリベラルな州でサバイブしてきた。予備選でのロムニー⽀持の多くは、他にオバマに対抗できる候補がいないためという⾮常に消極的な理由である。また共和党⽀持の⽩⼈福⾳派の31%がモルモンには投票しないとする調査結果もある。他⽅オバマには彼がムスリムであるとの誤解が政権就任以後に増えている。実際は幼少期から世俗的だったが、シカゴで教会基盤のコミュニティ・オーガナイザーをしていた時に、宗教的コミュニティの意義に⾮常に共鳴したという。そしてオバマ政権は価値イシューを相対化し、⼈権や平和を愛する⽴場から信仰を軸に⽀持を集める⽅策から、政治的にはリベラルな福⾳派やカトリック教徒の選挙参加も⽬⽴っている。また医療保険改⾰では避妊の問題が⽣じており、プロチョイスか信仰かという問題に対して、⺠主党旧来のフェミニズムの観点からプロチョイス擁護で⼥性票を安定させる必要性とカトリック票の繋ぎとめの間で、ジレンマに陥っている。
 オバマ政権の課題は、経済ポピュリズム路線を越える中⻑期の成⻑戦略が無く、また基礎票の投票率の問題もある。対してロムニーの課題は、反オバマをどう活かすのかであるが、モルモンの問題は武器にできていない。宗教的寛容性はカトリックのケネディで実現されたが、モルモン教徒の⼤統領誕⽣がそれ以上に象徴的なものにはなり得ないこともその背景にあると渡辺准教授は講演を結んだ。
 続いて宮家⽒は、アメリカの中東政策を「現状維持」と「⼒の真空」というキーワードで説明した。20世紀初頭の英国によるペルシア湾⽀配の時代から、アメリカの中東湾岸政策は⼈と物資の⾃由な流れという現状を維持することだった。同地域の⼒の真空は1970年前後に始まる英国のスエズ以東からの撤退が最初であり、⼒の空⽩が⽣じればそれを埋めるために各国が動き、新たな紛争の種が⽣まれる。そのプロセスをどう統御するかが過去数⼗年にわたりアメリカの最⼤関⼼事であった。また、しばしばユダヤロビーの陰謀による中東政策の偏向が⾔われるがそれは誤りであり、⺠主党で主流のユダヤ系アメリカ⼈でもイスラエルに批判的な者が少なくない。
 中東和平問題に関しては、1978年のキャンプデービット合意、それに続くエジプト、ヨルダンとイスラエルの平和条約がアメリカの基本かつ最も重要な現状維持の装置である。シリアとイスラエルについては暗黙の不戦合意があると考えられるが、シリアが倒れればこの暗黙の合意が無くなり、⼤混乱が起きる可能性がある。アメリカはエジプトでの政変を受けて対シリア政策を変更しつつあり、またイスラエルもこれがシリアを叩く好機と捉えている。シリアがイランの有⼒な友好国であることを考えると、シリアの体制変更は地域の地殻変動を引き起こす可能性がある。
 湾岸については、アメリカは⾃ら駐留してイランを抑⽌していたが、2001年以後はイラクとアフガニスタンで無駄な戦争を⾏なった。今後の⽶軍撤退により⽣じる⼒の空⽩を埋めるのは、歴史的にこの地域が⻑くペルシアの⽀配下にあったことからも、イランしかないように⾒える。それは今後5〜10年でアメリカとイランが戦う可能性を意味するかもしれない。またアメリカのイラン叩きの理由はイスラエル防衛だけではない。アメリカがアジア太平洋国家であり続け、⽇本や韓国などの同盟国を維持することを望む限り、湾岸地域を守らねばならないのである。
 最後に、宮家⽒は重要な年として2025年を挙げた。第⼀に、現在アメリカは⼆正⾯作戦を遂⾏できず、今後も国防費を削減していくとすれば、当⾯この状況は変わらない。ゆえに⽶海軍と海兵隊を「公共財」とすれば、中東と東アジアのどちらの地域がそれを使うのかが問題となる。第⼆に、おそらくあと数年で⼈⼝ボーナスが無くなる中国は2025年までには必ず政治的社会的に変わり始めるはずだ。それが悪い⽅向に向かった場合、それは東アジアにおいてより多くの抑⽌⼒が必要となることを意味する。中東と東アジアで同時に危機が⽣じた時、⽶軍の派遣をめぐりホワイトハウスで中東専⾨家とアジア専⾨家の間で綱引きが始まるだろうが、宮家⽒はこの勝負は絶対にアジアが負けると述べ、その時に我々⽇本が必要な抑⽌⼒を提供できるか否かが問題となると問題提起し、講演を締め括った。
 両⽒の講演の後、伊奈⽒と⼩原教授を加えパネルディスカッションが、さらに⾮公開研究会が⾏われ、活発な議論がなされた。  (CISMOR特別研究員 朝⾹知⼰)
【ディスカッサント】
伊奈久喜(日経新聞特別編集委員)
小原克博(CISMORセンター長)
【モデレーター】
村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

【プログラム】
13:30-13:35  開会挨拶 村田晃嗣
13:35-14:15  講演「米大統領選挙と宗教要因」 渡辺将人
14:15-14:55  講演「アメリカの中東政策」  宮家邦彦
15:00-15:45  パネルディスカッション 伊奈久喜、小原克博

※入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
講演会プログラム