同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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世界平和と共通イメージ  ※レジュメあり

公開講演会

国際シンポジウム

世界平和と共通イメージ  ※レジュメあり
レジュメは画面の最下部からダウンロードできます

日時: 2017年08月05日(土)10:00-18:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 良心館RY107教室
講師: ■研究会「世界平和と共通イメージ (World Peace and Common Visions)」
第1セッション 10:00-12:00
第2セッション 15:30-17:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 良心館RY107教室
発表者: 四戸潤弥(同志社)、徳増公明(日本ムスリム協会)、 Munqiz Alsakkar(RABITA)、中西久江(同志社)、サミール・ヌーハ(同志社)、 Ibrahim Jiao(RABITA)

*英語とアラビア語で行われますが、レジュメには発表原稿の和訳が添付され、また質疑応答には通訳が入りますので、日本語だけでも理解できるようなっていますので、是非ご参加ください。

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■シンポジウム基調講演
世界平和と共通イメージ
World Peace and Common Visions
時間: 13:00-15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 良心館RY107教室
講師: ムハンマド・アブドゥルカリーム・イーサ閣下(世界イスラーム連盟総裁・前サウジアラビア政府法務大臣)
要旨:
本シンポジウム開会に際し、先ず、圓月勝博氏(同志社大学副学長)、Muhammad bin Abdul Karim al-Issa閣下、徳増公明氏より、それぞれご挨拶があった。Issa閣下(通訳:四戸潤弥氏)は、世界イスラーム連盟の目的が「ムスリム或いはイスラームにとどまることなく人間という観点に立って教えを広めていくこと」「イスラームの意味(国際社会と平和共存すること)をはっきりさせること」「政治や宗教、文化等の様々な分野を統合して世界平和や世界の諸民族との共存という立場に立っているということ」「自分達が出来ることで以って教育に関する助成など学問的に交流ができる環境の整備を推し進めること」等を強調した。そして、世界イスラーム連盟から同志社大学へ記念品が贈呈され、本シンポジウムは開幕した。

 午前の研究会では、先ず、四戸潤弥氏より発表があり、サウジアラビア建国理念指導者ムハンマド・アブドルワッハーの論考「3つの原則」の分析を通じて、信仰の深化を我々に教えたことを明らかにした。その中で、彼の強調点が一神教ではなく一神教を歪曲したシルクの否定にあり、それがイスラームの教えの根幹となることを示し、彼は過激派の始祖ではない、ということを理解する必要があることを強調した。
 次に、徳増公明氏より発表があり、世界平和を脅かす諸々の行為を解決する方法について、経済利害の対立を超えた諸国家の国際協力が必要不可欠であること、そして、宗教学者や指導者が諸国民の良心の再生に向けて役割を果たすべきであることを主張し、また、紛争解決に向けた対話の前提条件として「平等な立場の保証」「誤解や騙しを含ませない明確な言葉」「忍耐と相手への敬意」「当事者双方の利益の実現」「紛争とその原因の正確な把握」を列挙した。
 続いて、Samir Nouh氏より発表があり、人類の安全保障と平和の実現に向けて、各研究分野に宗教へ回帰する必要性を呼びかけ、日本の大学に一般的なイスラームに政教一致の概念があるという設定下の政治学研究の無意味さは、欧米社会のイスラーム理解からの脱却により解決されること、等を提唱した。

 午後、Muhammad bin Abdul Karim al-Issa閣下(代理:Mhd. Monqith al-Sakkar氏)(通訳:四戸潤弥氏)により基調講演が行われた。その内容は凡そ次の通りであった。
「人類の歴史はその誕生以来争いが続いているが、最も激しいのは宗教による闘争である」と云われているが、宗教は決して闘争を促進するものではなく、むしろ闘争に歯止めをかける役割を担っており、尚且つ、その教えは「人々に善き生活を送らせる」という基本的原則に沿っている。多くの大国が宗教を大義名分として戦争を起こしているが、よくよく視れば、その目的は植民地主義の野望 や経済的利益であることが明白である。
 新しい現象として「イスラーム嫌悪」という潮流が生まれ、欧州内外の多くの研究により、「イスラームは恐怖の宗教でありテロリズムの宗教である」と結論づけられている。ムスリムの中でもテロリズムに走る人がいることは事実だが、イスラームをしっかりと学んだ学者の中にテロリズムを正当化し支援する人はいない。その違いに気付いてほしい。イスラームに対する正しい知識が無いために、「イスラームはテロリズムの宗教」といった誤解が生じている。
 イスラームの最大の特徴は「我(神)は汝(預言者ムハンマド)を全世界への慈悲として遣わした」にある。アッラーは預言者ムハンマドをアラブやムスリム だけに遣わしたわけではなく、全ての生けとし生けるものに対して遣わした、というのが我々の理解である。預言者の言葉には「人々の倫理道徳を完成させるためにイスラームというメッセージが送られてきた」とある。すなわち、人間の道徳的価値は預言者ムハンマド以降に生じたものではなく、元々人間には本能として高貴なる倫理道徳が宿っており、人々がそれを理解し完成させる為に預言者が遣わされた、というものである。
 人間には「やられたらやりかえす」という性質があり、キリスト教にある「右の頬を打たれたら左の頬を出せ」はイスラームでは受け入れられない。耐える方法もあるが、人間の本性に逆らって進めたところで何も実現できない。本性に合わせた中でよいものを考えるのがイスラームである。クルアーンには「自分に対して戦いを挑んできた者に対しては戦え」そして「敵対行為が無ければ、自ら敵対行為を示す事はよくない」という教えがある。
「イスラームは平和の宗教である」ということを強調したい。イスラームとサラーム(平和)は語源的に一緒で、イスラームと平和とは同じ意味である。科学的知識やアカデミックな知識で理解すれば、イスラームがテロリズムの宗教ではないということがお分かりいただける筈である。

 基調講演後の研究会では、先ず、中西久枝氏より発表があり、人々の安全保障が人間の尊厳を確保することにつながることを主張し、その例として、MENA(中東&北アフリカ)の急速な人口成長と人口流動性を指摘し、これらの移住者集団の社会形成が、MENA地域のアラブ文化とムスリム社会ならびに地方経済に長期的かつ強力な影響を及ぼし続けていること、当地域の不安定さと長引く紛争の原因が必ずしも諸国家が覇権を求めているというだけではなく人間の不安定要因こそが真の原因であることを強調し、より平等でバランスの取れた地域にするためには、グローバルなパートナーシップが不可欠であることを強調した。
 続いて、趙鍚麟(Ibrahim Chao)氏(通訳:四戸潤弥氏)より発表があり、基調講演の通り、イスラームは全人類に与えられたメッセージであってそれを受入れることが正しいということ、道徳は人類の種の保存の中で人々の行いを真っ直ぐな方向に向かわせる役割があること、特定の人種の上に自分達を立たせたいという考え方は侵略という形で現れること、等を主張した。また、世界平和と諸国民が持つ価値には、人類に共通する公平・自由・平等といったイスラーム的価値と共通性があることを強調した。

 最後に、Sadok Mahfoudhi 氏により、世界イスラーム連盟と同志社大学との共同声明が発表され、本シンポジウムは幕を下ろした。
 共同声明では、Muhammad bin Abdul Karim al-Issa閣下が世界平和を達成するためのムスリムの熱意を強調して本セミナーを開催したことが紹介され、本セミナーの参加者に対し①イスラームを理解し、過激派の敵意に満ちた意見に惑わされず、テロ、暴力、殺人行為を糾弾すること、②宗教、特にイスラームは、過激派組織によるテロ、暴力、殺人行為に対して無実であること、③「イスラーム嫌悪」を完全に取り除かなければならないこと、④宗教指導者は人間の文明を評価し、世界の平和を達成し、価値観を保ち、パートナーシップを強化するための橋渡しに協力するよう呼びかけること、⑤人間関係の促進、人権の擁護、人々の安全、繁栄、自由に対する権利を支援し、平和、正義、思いやり、相互尊重を規範とする世界のために協働すること、⑥環境を保全し、武器や大量破壊兵器から人間を守ることを目的とした国際協定を遵守すること、⑦移住および苦しんでいる人々に対して支援がおこなわれるよう、世界の国々に結束を促すよう呼びかけること、⑧学校及び家庭に崇高な宗教的価値を与え、人間の理想と道徳的倫理を損なおうとする者、家庭を傷つけようとする者に注意すること、⑨すべての信徒に積極的に社会的責任を果たし、社会に融合し、その発展に寄与すること、等が推奨事項として挙げられた。

(CISMOR特別研究員 阿部泰士)
※入場無料、事前申込み不要
※基調講演は逐次通訳がつきます。ワークショップは発表言語がアラビア語または英語で行われ、簡単な日本語説明のみ行う予定です。

【主催】世界イスラーム連盟、日本ムスリム協会、同志社大学一神教学際研究センター
20170805poster
20170805講演会プログラム
四戸潤弥_レジュメ(亜・日)
徳増公明_レジュメ(亜・日)
サミール・ヌーハ_レジュメ(亜・日)
イブラーヒム・ツァオ_レジュメ(亜)
中西久枝_レジュメ(英)
共同声明文(英)