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中東の平和と安定とサウジアラビア王国の役割

公開講演会

21世紀COEプログラム公開講演会

中東の平和と安定とサウジアラビア王国の役割

日時: 2006年12月11日(月)午後3時~5時
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館 礼拝堂
講師: ファイサル・ハサン・トゥラード(駐日サウジアラビア王国大使)
要旨:
ファイサル・ハサン・トゥラード駐日サウジアラビア王国大使は、「中東の平和と安定とサウジアラビア王国の役割」と題し、現在の中東問題に対するサウジアラビアの基本的な考え方を中心に講演された。
まず氏は講演を始めるにあたり、サウジアラビア王国の簡潔な紹介と、2005年に国交樹立50周年を迎え、とりわけ経済関係において密接な関係を有してきた日本との関係について述べた後、以下の様に語った。
サウジアラビアは建国以来その外交政策において、世界平和と安定を促進すること、アラブとイスラーム世界の大義を守ること、そして国際法規範と国際協定を遵守することを基本姿勢とする。それゆえサウジアラビアは、国際政治においては国連創設に、地域政治においてはアラブ連盟創設やアラビア湾岸諸国協力会議(GCC)創設に参画した国の一つとして、国際社会の平和と安全保障を維持するために様々な支援を行ってきたのである。
サウジアラビアはあらゆるテロ行為に反対を表明するが、それはサウジアラビアの宗教であるイスラームがそれを禁じていることに由来する。そしてこの姿勢は9・11以前から堅持されており、それ以降もテロに対する戦いを完全に支援する立場を取っている。
そして、サウジアラビアは中東地域の紛争が交渉そして国際法の参照によって解決されるべきであり、侵略や暴力では解決されるべきではないと考え、中東地域の全ての国が関連する国連決議を十分に履行することが、同地域の全ての国々の国益を最大限に実現することにつながると信じる。アブドッラー国王は文明間の衝突という考え方を非難し、それに代わる文明間の建設的、平和的共存を唱導し、国家間、民族間の関係が真の対話の関係に移行する必要性を強調している。そしてそこでは相手に対する敬意と尊重が求められるのである。
また富める国は途上国への支援することは義務であるとし、サウジアラビアは過去30年間に70カ国以上の途上国支援を行ってきた。そのような世界への貢献の一つとして中東地域への貢献もまたなされている。現在、中東地域は危険な局面に直面していると言え、とりわけレバノン情勢とイランの核開発、そしてイラクにおける困難な状況を挙げることが出来る。このような状況の下、サウジアラビアはイランに対し開かれた対話を求め続けており、またレバノン、イラクに関しては壊滅的な社会経済的基盤に対する経済的援助ならびに人道援助を行っている。しかしそれら国の問題解決は当該国自体が実現すべきものであり、サウジアラビアはそれに至るための控えめな支援者に過ぎないと認識している。
しかし氏は、これらの問題を考える際、全てを分離して考えることはよい方法ではないと指摘する。必要なのは全体を見据えた包括的な戦略であり、それゆえに問題の根源に遡って始めることである。そしてその根源にある問題とは、パレスチナ‐イスラエル紛争なのである。氏は、イスラエルのパレスチナ占領が国際法違反であり、この紛争は二つの民族間だけの問題なのでなく、国際社会の安定の障害となっているとする。そして世界各地でテロリスト達がこの紛争を自分達のテロ行為の正当化に利用しているのである。
それゆえ持続可能な解決へ向けてパレスチナとイスラエルを動かしていくことが、指導的国家の重要な責務なのである。これまでもこの紛争解決に向けて、様々な提案、決議がなされてきたが、その実現のための誠実で公平な履行や強制的執行はなされなかった。対立する当事者達が交渉のテーブルにつき、外交交渉のもとで公正な和平案は導出されるものである。そしてこの交渉過程に信頼が成立する時のみ、履行における信頼が可能になるのである。そのような解決への動きが生まれる時、自らの暴力の正当化にこの紛争を利用しようとする者達も姿を消すだろうと述べ、氏は講演を締めくくった。

(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 朝香知己)
【主催】同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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