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中東和平への心理学的アプローチ ―和解への文化融合的解明-

公開講演会

中東和平への心理学的アプローチ ―和解への文化融合的解明-
Cross-Cultural Aspects of Reconciliation: Psychological Features Affecting the Israeli-Palestinian Relations and the Path to Peace in the Middle East

日時: 2016年11月20日(日)13:00-14:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館チャペル
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師: アリー・ナドラー(テルアヴィヴ大学名誉教授)
要旨:
 本講演でナドラー氏は、「中東和平への心理学的アプローチ ―和解への文化融合的解明―」という演題を、「1. イスラエルとパレスチナ間の紛争の歴史的背景」、「2. 紛争の背景にある心理的側面について、紛争の言説(ナラティヴ)と被害者意識とその競争状態という観点からの検証」、「3. 紛争と和解に関して異文化間での作用影響について」の三点から論じた。
 パレスチナ人とユダヤの人々はヨルダン川流域から地中海沿岸にかけて何世紀にも渡り共生してきた。現在のイスラエル、パレスチナ間の紛争は、1947年に行われた国際連合総会決議181号(パレスチナ分割決議)が始まりである。イスラエル、パレスチナ間の紛争は、中東戦争として、4回のアラブ・イスラエル紛争として、そしてパレスチナ抵抗運動として続いているが、この衝突が解消される見通しは立っていない。このような現在の歴史的背景、政治的要因、対立の有様については、様々な要因が考えられるが、講演ではこの対立の心理学的観点について論じられた。
 ナドラー氏によると、軍事行動や対立は生命財産の安全を脅かし、また破壊行為を伴うが、対立における相手の非に関する主張と、自己の絶対的正当化こそが、人々の苦境を助長し、紛争状態の解決を困難にしているとされる。なぜなら、自身が所属するグループは絶対的に正しく、正義であるとする一方で、相手は絶対的に間違っており、不当で不正義であると主張され、それが教育システムの一部に組み込まれることで、相互理解が妨げられるだけでなく、問題を解決する糸口を見逃してしまうからだ。
 なかでも、「被害者による言説」は、紛争解決を考える上で重要な観点で、氏はこの点について実際の例を出して説明した。数年前、テルアヴィヴ大学で「国際紛争」の講座を担当していた際、ユダヤ人の学生はシオニズム運動やホロコーストについて引き合いに出し、他方、パレスチナ人の学生は1948年以降のパレスチナ人の苦難を語った。そして両者ともに、自らの共同体が経験した被害を語ることで、自身ならびにその共同体を合法化しており、唯一の被害者であると主張することに何の躊躇いや相手への配慮も見られなかった。このような「本当の被害者とは誰か」を争う対立する両者の言い争いは、他の紛争地域でも見られることから、自己の絶対的正当化を図るプロセスは普遍的といえるそうだ。
 ナドラー氏によると、被害者意識を持つことで他者に対する共感の必要性がなくなるだけでなく、「被害者である」というレンズのみを通して世界を見ることに繋がってくるという。またこの被害者意識から発生するもう一つの現象として、「過去の歴史において被害者であった」という怒りや不満を現在目の前にいる敵に転嫁することがあり、「被害者なので何をやっても正当化される」と考えることさえあるそうだ。このような理由から、紛争地域における「被害者意識の奪い合い」は、和解に対する意識を低下させるだけでなく、非生産的で破壊的結果を生みかねないという。
 講演の締めくくりとしてナドラー氏は、「被害者意識の奪い合い」とそれに付随する問題を解決する方法は二つあると提唱した。一つ目は、自身が被害者で相手が加害者であるという考え方ではなく、両者ともに被害者であり加害者でもあるという意識を啓発していくこと、そして二つ目は、相手の被害に対し理解を示そうとすることだ。また、「理解」という点で忘れてはならないのは、「平和」という概念は異文化間においてその定義が異なりうるということだ(欧米では戦争と平和という風に二極的に捉えがちである一方、戦争と平和の間に幾段階があるとする文化もある)。先に挙げた二点を啓発し、文化間の概念の定義の相違を理解し合うことで、過去の清算は少しずつ実現されていくのではないかと述べ、氏は講演を締めくくった。
(CISMOR特別研究員 川本悠紀子)
※入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
20161120ポスター