CISMORセミナー
cismor セミナーシリーズ(第12回)
教義の壁を越える:仏教徒とムスリムの相互理解における「並列主義」
日時: |
2017年10月27日(金)15:00-16:30 |
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場所: |
同志社大学今出川キャンパス 至誠館3階S34教室 (京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分) |
発表者: |
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要旨: | |
小布施氏は冒頭で、“Buddhist-Muslim Relations(仏教徒とムスリムの諸関係)”が、南アジア及び東南アジア(ミャンマー、スリランカ、タイなど)における、政治的および社会経済的要因を伴った宗教的衝突の諸事例を踏まえた新たな研究分野であり、仏教徒とムスリムそれぞれの教義的視点に焦点を当て、双方がそれぞれどのように宗教的他者を理解しようとしているかについて検証をする研究であることを説明した。 続いて小布施氏は、現代における仏教徒とムスリムそれぞれの相互認識における主な見解として、仏教は、ムスリムからは「唯一神・創造神概念が欠如している」「偶像崇拝」「多神教」、また、道徳上の教えとして「ブッダは預言者の1人であった?」といった理解がされていること、他方、イスラームは、仏教徒からは「(一神教上の信条に起因して)宗教的に不寛容である」、また「信者間に連帯意識がある」、といった理解がされている点を示した。 このように仏教とイスラームとの間にはしばしば教義的に隔たりがあるものとされていることから仏教徒とムスリムの対話は滞りがちであったが、近年、両教徒の学者の間で、主要な概念や教義の類似性を指摘する新しいアプローチ(“Parallelism(並列主義)”)が、諸宗教の神学における3つのモデル(“Exclusivism(排他主義)”、“Inclusivism(包括主義)”、“Pluralism(多元主義)”)に加わる新しいモデルとして現れたことが小布施氏により紹介された。 それぞれの特徴についての解説は、凡そ次の通りであった。“Exclusivism(排他主義)”は自分自身の伝統のみが救いの道を提供するという立場であり、この見解によれば、他の伝統の信者は、救いについての真実やそれを達成するための手段にアクセス出来ない。“Inclusivism(包括主義)”は救済に関する真理が自分自身の伝統によって最終的に見出されるが、この真理のいくつかの側面は、不完全な形ではあるが、他の伝統にも存在するというアプローチを指す。“Pluralism(多元主義)”は一つの「真理」が世界の人々にさまざまに経験されており、異なる宗教はそれぞれその「真理」を表現したもので、そのすべてが等しく「有効である」という仮説である。 従来は、仏教とイスラームそれぞれの認識に関する分析の際に「諸宗教の神学」を用いることに対し、「『諸宗教の神学』は時代遅れなのでは?」「『仏教の神学』という表現は意味をなさないのでは?」といった批判があり得た。それに対して“Parallelism(並列主義)”は、異なる宗教の教義上の類似点(parallels)に焦点をあて、2つ以上の伝統の主な概念と教義との間の類似点を議論することに焦点を合わせる観点を指すものとして定義されるもので、多様な伝統を平等な立場で扱うことを模索するという点では“Pluralism(多元主義)”の一形態と見做されがちだが、各々の宗教が主張する「真理」が究極的に同一のものを指しているか否かについての判断は下されない、と理解する点において“Pluralism(多元主義)”とは別のカテゴリーである、といった説明がなされた。 最後に、小布施氏は、ムスリムの神に対する理解を、インドネシアの仏教徒(大乗仏教徒)により神と同等の存在として示された「アディ・ブッダ (本初仏)」の概念と比較したAlexander Berzin氏の研究結果を基に、インドネシアでは、唯一の至高神、預言者、聖典を有するならば、多数派であるイスラーム以外の宗教も公認されていること、また、インドネシアの仏教徒は、全てのものの源と考えられている「アディ・ブッダ」を至高神として示していることから、「解釈は異なるものの、仏教において神の概念が受け入れられている」例を紹介した。さらに、イスラームにおいては、アッラーは擬人化されておらず、究極的には人格化されておらず未知である、という理由から、言葉でも概念でも表現できず想像出来ない対象である「アディ・ブッダ」は「概念や言葉を超越、想像を絶するもの」としてムスリムが容易に関連付けることが出来るものである、といった同氏の見解が紹介された。 (CISMOR特別研究員 阿部泰士) 1. 本セミナーは研究者・学生(聴講生含む)が対象になります。 2. 講義は主に英語で行われますが、日本語による解説も行う予定です。 3. CISMORセミナーシリーズは1年を通して定期的に開催する予定です。申込みは不要ですが、今後継続して参加をご希望の方には事前に連絡・資料配布などいたしますので、ご登録をお願いします。氏名・所属大学・ポジションをご記入の上、一神教学際研究センターまでメールにてご登録ください。 |
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