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現代中国におけるキリスト教──無神論社会を生きるクリスチャンたち

公開講演会

第1プロジェクト 公開講演会

現代中国におけるキリスト教──無神論社会を生きるクリスチャンたち

日時: 2011年08月27日(土)13:00−15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階 礼拝堂
講師: 薛 恩峰(日本クリスチャンアカデミー・関東活動センター所長)
要旨:
 講師の薛恩峰先生は牧師家庭に生まれ、幼少期に文化大革命における教会迫害を経験された。同志社大学神学部で学ばれ、現在は日本クリスチャン・アカデミー関東活動センター所長と日本基督教団の牧師を務めておられる。先生は、中国におけるキリスト教の歴史をふまえ、共産党政権樹立以降のキリスト教について中国政府の宗教政策との関連などから講演してくださった。
 今日の中国における宗教を考えるうえで、中国共産党のイデオロギーについて触れておかなければならない。中国共産党は史的唯物論に基づくマルクス・レーニン主義と毛沢東思想を信奉しており、その国家イデオロギーは宗教政策に大きな影響を与えている。そもそも中国では社会主義がすべての大前提となっており、中国政府は無神論の立場にたっている。宗教はその立場に対立するものであるが、実際に市民の生活において社会主義政権樹立以前より存在してきた。そのために、宗教指導者は社会主義への適応を迫られてきた。宗教は社会的政治力と見なされてきたことから、宗教団体は政府への登録によって、その管轄下に置かれている。
 中国においてキリスト教が現在の形に至るまでに、中国とキリスト教は4回に及ぶ断続的接触があった。7世紀には景教と呼ばれたネストリウス派、13世紀には景教とカトリック、そして16世紀にはイエズス会のマテオ・リッチによる宣教が行われた。そして、1807年に東インド会社で通訳として勤めていたロンドン宣教会のロバート・モリソンが、中国での宣教を始め、1823年に最初の中国語訳の聖書を刊行した。その後も、アメリカを中心に多くの宣教団体が中国で活動した。
 しかし、1840年に起きたアヘン戦争によって西洋列強の侵入が始まったことから、キリスト教は「洋教」(西洋の宗教)として警戒されるようになった。また、中国人によるキリスト教の土着化の努力がなされたが、教会の主導権は外国人宣教師に握られていた。1920年代以降、西洋列強の侵略政策に結びつけられたキリスト教への抵抗感から、大規模な反キリスト教運動が起こり、宣教が困難になっていった。ただ、現在では、宣教教活動の一環として行われた医療や教育、慈善活動における貢献が知識人たちによって見直されるようになった。
 1949年に起きた共産党政権の樹立と中華人民共和国の建国は、中国のキリスト教にとっての転換点となった。毛沢東が「キリスト教は西洋列強の中国に対する精神的・文化的侵略の道具」と認識していいたことから、共産党政権の政策によって外国の宣教団体は排除され、教会は外国ミッションとの関係を断絶させられ、財政支援の道を失うこととなった。中国のクリスチャンは国内で孤立し、苦しい時代を過ごすこととなった。
 しかし、こうした共産党のキリスト教に対する立場を受けて、中国の教会内で帝国主義とキリスト教のつながりを認め、そうした影響を排除するように努める動きが現れた。その結果、1951年に主要なキリスト教団体が集まり、外国ミッションとの関係を完全に断ち、「自治・自養・自伝」が方針として定められ、三自運動という愛国運動委員会が各地に設置された。1958年には社会主義国家で生き残るための策として、プロテスタントの教派が合同した。その結果、現在の中国では「教派」は存在しない。こうしたクリスチャンの状況に追い打ちをかけるように起きたのが、文化大革命であった。「宗教はアヘン」であるとの認識から厳しい迫害を受けながらも、教会を奪われたクリスチャンたちは秘密集会を開き、信仰を守り抜いた。しかし、1978年、共産党は文化大革命の誤りを認め、1982年には信教の自由が憲法に定められた。
 現代中国のキリスト教は三自愛国運動によって合同したことから、「教派」がないという大きな特徴を持っている。一方で、憲法で信教の自由は認められるようになったものの、社会主義という国是に適合した活動をしなければならない。例えば、聖書の販売は一般の書店では許されておらず、教会の施設内でしか購入することができない。
 1982年に信教の自由が認められて以降、キリスト教ブームが起こり、中国のクリスチャンは急増した。「復活」は中国のクリスチャンの経験を表しているといえるだろう。


(CISMORリサーチアシスタント 山下壮起)
※日本語による講演、入場無料・事前申込不要
【主催】CISMOR
【共催】同志社大学 神学部・神学研究科
講演会プログラム