同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

> 公開講演会 >

真の平和を実現していくために ―コプトが伝える聖家族のエジプト避難の旅とイスラームの聖遷(ヒジュラ)を通して考える―

公開講演会

真の平和を実現していくために ―コプトが伝える聖家族のエジプト避難の旅とイスラームの聖遷(ヒジュラ)を通して考える―

日時: 2013年06月08日(土)13:00-15:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館3階礼拝堂
講師: 久山 宗彦(カイロ大学文学部日本語日本文学科客員教授)
要旨:
 久山氏はカイロ大学文学部日本語日本文学科の客員教授で、法政大学教授やカリタス女子短期大学学長などを勤めてきた方である。久山氏によれば、エジプトのキリスト教やイスラームを柱とする一神教の文化に対して、日本は多神教の文化であり、多様性を背景に和の文化を保ってきた。そのため両国は互いに基本的な発想が異なっており、お互いの文化を知り合うことが両国にとって有益になるという。先の革命の後で新しい道が見えにくいなかで、どのように新しい社会を作り出していくかが、エジプト社会の第一の課題であろう。このような状況下にある日本学科のエジプト人学生にとっては、和でもって纏めていく日本の文化が新鮮であるという。
 現在、エジプトの宗教はイスラームと国民の10パーセント少々のコプト教である。エジプトは伝統を大事にする社会であり、実は三層の宗教文化をもっている。最初はファラオの時代である。その後でコプト教がエジプト全体の宗教となった。幼子イエスと母マリア、そしてヨセフ、それに乳母のサロメの聖家族がエジプトに逃れた時には、エジプトの住民たちは教化され、さらに聖マルコの宣教があり、エジプトのアレキサンドリアはキリスト教の一大拠点となった。そして7世紀にはイスラームが入ってきて、これが最大の宗教になった。
 コプト教にとって聖家族のエジプト避難の旅は非常に大切な出来事である。ヘロデ王による幼子イエス殺害計画の難を逃れて聖家族は3年半にわたって避難の旅をつづけた。久山氏によれば、聖家族のエジプト避難の旅はムスリムにとってもヒジュラと重ねて受け取れる可能性のある出来事であるという。ヒジュラとは622年にムハンマドが同志と共に迫害の難を逃れてマッカからマデイーナへ能動的に移動したという出来事であり、この年はイスラーム暦の元年となっている。このように、神の道を進んでいった聖家族のエジプト避難の旅とヒジュラの両者は、悪行を目論んでいる悪玉に対してアクティブに攻撃、抹殺して問題を解決していこうとする世の政治的指導者の、相手と同次元で抵抗(敵対)していこうとする態度とは正反対に、敵を許すがゆえに相手に抵抗し懲らしめたいという自らの欲求と敢然と戦う、徹底した反-抵抗(敵対)という能動的な、従って平和的な態度を継続して取るのである。
 聖家族のエジプト避難の旅、そしてヒジュラという視点から、真の平和への第一歩について考えることが出来ると久山氏は語る。現在も報復の論理が主流であるが、キリスト教、即ち、イエスは報復の論理を否定している。汝の敵を許し愛しなさい、という報復の論理とは正反対の姿勢がコプト教の根幹となっている。
 エジプトでは多くの人はイスラームとコプト教は一体であると見なしている。先の革命の時には、クルアーンや十字架を頭上に掲げてムスリムとコプト教徒が共にデモに参加していた。また、デモの合間にムスリムが祈っている時には、コプト教徒が周りを囲って妨害がないよう監視していた。またポスターでは、十字架と新月を組み合わせて1つのエジプトを強調するものもあった。
 今後の現代世界に見られる敵対行為については、相手と同次元で抵抗(敵対)するのではなく、精神的な武器をもって自らの欲求と戦っていく、精神的避難の方向に転化していくことが重要であろう。   (CISMORリサーチアシスタント 藤本憲正)
※日本語講演
※入場無料・事前申込不要

【主催】同志社大学 一神教学際研究センター (CISMOR)
【共催】同志社大学 神学部・神学研究科
プログラム