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聖なるものへの問い掛け-一神教信仰における献祭-

公開講演会

公開講演会

聖なるものへの問い掛け-一神教信仰における献祭-
Who had been sacrificed?-The three monotheistic religions about Akedah

日時: 2017年11月01日(水)16:50-18:50
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館チャペル
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師: 蔡 式平 (香港神学院准教授)
要旨:
蔡氏(通訳:筆者)は冒頭で、ラマダーンが、クルアーンに記されているアブラハムの「息子の献祭」に倣ったものではあるが、3つの一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)それぞれの聖典(タナハ、旧約聖書、クルアーン)に於ける当該テキスト同士を比較したところ、クルアーンがその献祭によって献げられた息子が誰であるかを示していない一方で、旧約聖書およびタナハはその者がイサクであることを明確に示していること、また、クルアーンではアブラハムの恭順が強調されているが、他方、旧約聖書やタナハでは彼の信仰が強調されている、といった明確な相違点があることを指摘した。
講演では、このストーリーに関し、「アブラハムの地位」「イサクのアイデンティティ」「イシュマエルの後継」「献祭(犠牲)の実践」「神の約束」「3つの一神教にとっての、祭の記憶とその現代的意義」といった6タイトルを掲げ、3つの一神教の聖典各々の該当テキストとその解釈についての分析が発表された。
 先ず、イスラームでは、アブラハムは預言者ムハンマドの祖先であり、彼の行為がアッラーへの恭順の模範的なモデルとして用いられる一方、西暦50-150年の間にキリスト教ではアブラハムは最初期のキリスト教徒と見做されるようになり、彼の恭順と信仰の両方が、当該ストーリーの教えに併存する重要な要素であると捉えている点が指摘された。
 次に、イサクのアイデンティティについて、ムスリムからは、「預言者(の1人)」「義人」等と肯定的に捉えられているが、キリスト教徒からは「イエスの予型」として捉えられており、また、イサクとイエスの類似点について「奇跡的に生まれたこと」「唯一の子供であったこと」「モリヤ山で父によって献げられたこと」「次の(あるいは3番目の)日に復活したこと」「迫害される道を喜んで受け入れたこと」「別の生命の為に生命が犠牲にされることがあり得ることを示したこと」が挙げられている点が紹介された。
 次に、アブラハムが犠牲にするように命じられた「唯一の息子」という言葉の解釈の違いに関して、イスラームではその者が女奴隷ハガルによって生まれた長男イシュマエルであることを指し、一方、キリスト教では自由な身の女サラによって生まれた次男イサクを指している、という相違点が指摘された。
 また、献祭(犠牲)については、ムスリム達には、従順でアッラーに近づく喜ばしい行為であると信じられている一方、ユダヤ教徒達には神とイスラエルとの関係を表現する儀礼規範の1つであり信仰と義務の表明と見做されていること、そしてキリスト教徒達には、かつてイエスが犠牲として自分自身を献げたことにより、世界の人々がもはや犠牲なしで神と和解することが出来るようになったと信じられているこ
とが説明された。
 また、アブラハムに対する神との約束について、ムスリムの主張ではイシュマエルを通すことによるその子孫であるアラブ人達に対するもの、ユダヤ教徒の主張ではイサクを通すことによるその子孫であるイスラエル人達に対するもの、キリスト教徒の主張ではイエス・キリストを通すことによる全人類に対する普遍的且つ霊的なもの、という3宗教の相違点が示された。
 祭の記憶とその現代的意義について、イスラームでは、アッラーの歓喜を求めようとする人達にとっての1つの模範および慣習であり、メッカへの巡礼(ハッジ)がアブラハムの恭順を思い起こす祭典であるとされていること、ユダヤ教では、過越祭の子羊の犠牲と同等の意義があり、ユダヤ教の新年(ローシュ・ハッシャーナー)や大贖罪の日(ヨーム・キップール)に角笛(ショーファル)を吹き、創世記22章を読むことで、イサクの献祭を思い起こすこと、そしてキリスト教では、聖餐式、カトリックのミサ、正教会の聖体拝領を通して、イサクの献祭と関連づけて、磔刑に処されたイエス・キリストの偉大な愛と恵を覚えるものとされていること、といった点が挙げられた。
最後に、蔡氏は、3聖典それぞれのテキストは互いを補完できるものと信じられているが、実際は伝統および内容・形式がそれぞれ異なっていることを指摘し、その上で、3つの一神教の相違点について、互いの理解・尊重が促進されることを願い、本講演を締め括った。

(CISMOR特別研究員 阿部泰士)
※入場無料・事前申込不要
※英語講演、逐次通訳あり

【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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