同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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Peace and Security in the Middle East: From Iran’s Perspectives

公開講演会

第2プロジェクト公開講演会

Peace and Security in the Middle East: From Iran’s Perspectives

日時: 2010年11月26日(金)13:00−15:10
場所: 同志社大学新町キャンパス 臨光館2F R212教室
講師: Mahmood Sariolghalam (サイードベヘシュティ大学 教授)
Seyed Mohammad Kazem Sajjadpour (イラン国際関係大学院 教授)
要旨:
 本国際会議は、同志社大学一神教学際研究センターが主催し、平成22年度から開始された「中東における紛争防止の学際的研究の構築」と題する科学研究費補助金(代表者:中西久枝)が共催する企画で開催され、その趣旨説明が主催者及び共催者から説明された。
 マフムード・サリオルガラム氏の報告は、「9.11事件後のイランの外国政策」と題し、イランの外交政策を規定している論理構成を明らかにした。第一に、イランの外交政策はイランの国際的な経済関係や経済的利益の追求に基づいていない。それは、第二に、イランにおける権力構造がイデオロギー的であるがゆえに外交政策もイデオロギー的にならざるを得ないという点から派生している。第三に、イランはカージャール朝以来外国勢力による介入を受け、国家主権の確保が至上課題であり、そのためには国家権力基盤を常に強固に守る必要性があり、1979年の革命精神の防衛が根底にある。イラン革命の精神は、シオニスト政権の打倒と非抑圧者の解放という原理に基づいており、現在のイランと米国の敵対関係も、米国がイスラエルに対して特別な配慮をする政策を取り続ける限りは改善の余地はほとんどない。すなわち、イラン・イスラーム共和国の外交政策は、内政における正当性確保の延長上に存在し、内政と外交の強いリンケージは、伝統と近代性の二つの軸を往復しつつも揺るぎ難い。それが継続している限り、イラン経済の孤立は進み、それがイランの経済発展の可能性を犠牲にしている。
 講演会におけるサッジャドプール氏の報告は、「イランの安全保障政策:アフガニスタンを中心に」と題し、イランの安全保障政策の重要性、安全保障政策の規定要因、安全保障政策のアフガニスタン政策への適用という3つの観点からの報告であった。イランの安全保障政策は、9.11事件後の米国主導のテロとの戦いという文脈で、イランが国際的な脅威として位置づけられてきた点、中東における次の紛争や戦争の火種になりうる国家であるという認識があるがゆえに、国際的重要性がある。イランの安全保障は、国土の防衛、革命(体制)の防衛、国家の安全の確保という3つの基軸から構成されている。それは、イランが第一次、第二次世界大戦期に中立を宣言したにも拘らず占領下に置かれたという歴史的な事実から派生し、ここ10年間の動きで言えばイラク戦争、アフガニスタン戦争の狭間でイランが直面してきた現実があるがゆえに模索されてきたのである。
 イラン・イスラーム共和国は、独立、自由、共和国の3つの原理をもとに建国され、その建国精神を防衛することがイランの政策の根幹にある。それは、対アフガニスタン政策にも反映されているが、現在も200万人程度と推定されているアフガン難民がイランには30年以上にわたり存在し、その難民との共生や帰還問題がアフガニスタンとの長い国境をもつイランが抱える安全保障上の問題である。パシュトゥーン人を多数派とするアフガニスタンが他の少数派民族を周辺化している政策をとっており、イランはこうしたエスニックグループの保護の問題にも対処せざるを得ない。また、イランはアフガニスタンの和平と国家再建に関するすべての国際会議に出席し、主として電力、道路などのインフラ整備や外科医や教師教育など人材育成事業の面で、アフガニスタンの復興に貢献してきた。イランはアフガニスタンにおいて日本と共同で復興開発にあたるプロジェクトを開始しつつあり、多国間協力を通じて、アフガニスタンの復興開発に力を注いでいる。
 研究会では、イランのWTO加盟の可能性、イランの市民社会の成熟度、米国の関係改善やアフガニスタンにおける協調の可能性などについて活発な議論が展開された。

(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授 中西 久枝)
*入場無料、事前申込不要
【主催】 同志社大学 一神教学際研究センター (CISMOR)
科学研究費補助金『中東における紛争防止の学際的研究の構築』(研究代表者:中西久枝)
【共催】 同志社大学 神学部・神学研究科
講演会プログラム