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“The Effort of Muslim Scholars in Oman in the Deployment of Moderation” (オマーンのイスラーム法学者たちの試み-穏健主義の展開に対して)

公開講演会

“The Effort of Muslim Scholars in Oman in the Deployment of Moderation” (オマーンのイスラーム法学者たちの試み-穏健主義の展開に対して)

日時: 2012年11月12日(月)17:00-19:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 寧静館5階会議室
講師: Dr. Kahlan Nabhan Al-Kharusi
(オマーン 大ムフティー*補佐、基金・宗教局担当大臣)
 *ムフティー・・・イスラームにおける国家法判断者
【コメンテーター】四戸潤弥(同志社大学神学部・神学研究科教授)
要旨:
 アラビア半島に位置するオマーンの⼤ムフティー補佐、基⾦・宗教局担当⼤⾂であるカーハラン・アルハルスィー⽒により講演が⾏われた。講演題は「オマーンのイスラーム法学者たちの試み―穏健主義の展開に対して」である。⽒は三つの観点を提⽰して講演を始めた。すなわち、穏健主義、オマーン、イスラーム法学者の試みである。講演の構成は主に四つの段階からなる。すなわち、1)オマーンの地理・歴史、2)中庸の定義、3)中庸のルーツ、4)現代のオマーンである。
1)オマーンの地理・歴史:オマーンは地政学的にも戦略的にも重要な位置にある。地理的には、アラビア半島南東端に位置し、オマーン湾、アラビア海に⾯し、その向こうにはインド洋が広がる。その地理条件から、古代から交易国家として独⽴し、独⾃の⽂明を営んできた。⻄暦629年には、イスラームを受け⼊れた。ただし、戦争によってではなく、ムハンマドからイスラーム信仰を勧める⼿紙を受け取ったことをきっかけに、当時の王族らが国内で議論をした結果、平和裏に信仰することを決めたという。
2)中庸の定義:オックスフォード英語⼤辞典の中庸の定義を挙げて説明があった。それによれば、中庸とは理性的であり極端ではないことである。ただし、中庸さは⽂⾯ではなく結果としての⾏動によって判断されるとして、現代オマーンについて説明が⾏われた。
3)中庸のルーツ:オマーンの中庸のルーツは以下の四点に基づく。すなわち、宗教、⽂明化、知識と教育、国王の主導である。⼀点⽬の宗教について、中庸はイスラームの教えに基本原理として含まれる。  
 イスラームは、他者に対し寛容さと多様性を認めている。クルアーンに根拠がある。ニ点⽬の⽂明化について、伝統的な制度とそれに基づく安定した国家運営が挙げられる。それにより、交易が維持され交流が広まり、様々な地域や⼈びととの対話が維持される。三点⽬の知識と教育については、道徳と倫理に関する伝統の遺産を基礎にして、新しい問いについてオマーンの⼈々に相応しい形で答える取り組みが⽇々為されている。この点に関し、イジュティハードがある。イスラームの基本の教えがある⼀⽅で、⽇々新しい問題、新しい出来事が起こる。それに対しどのようにイスラームの教えのもとに対応すべきかを理性的に明らかにする努⼒が為されている。その役割をおもにイスラーム法学者が担っている。この努⼒について、無知こそが最も否定されるべきもので、常に知識に対し開かれ且つ学ぶことのできる環境のあることが、極端さを無くし、寛容を⽣む基礎になっている。四点⽬について、現代オマーンの国づくりは、カブース現国王の主導に基づいており、重要な点である。オマーンはスルターン制であるが、⼀種の議会である諮問議会が設置され、さらに国王は各地を巡って国内事情を把握している。また、現在の経済の発展も現国王の政策の成果である。
4)現代のオマーン:以上のような背景をもとに、現代オマーンのイスラームに基づく寛容の深い伝統がある。オマーン⼈は、道徳的かつ友好的で、古くから世界各地との交流の記録がある。たとえば⽇本、中国、インド、⻄アフリカにまで、オマーン⼈は敬意をもって受け⼊れられてきた。また、最後には、昨年の東⽇本⼤震災に対するオマーンの⽀援について触れ、オマーンと⽇本の強い繋がりを知ってほしいと述べた。その後、同志社⼤学の四⼾潤弥教授によるコメントがなされ、質疑では活発な質問が出された。例えば、オマーンの穏健路線が現国王の主導によるため、将来の別の国王がこの路線を⽌めることはあり得るのかについてである。これに対しては、国王の判断は伝統と現代の情勢に基づいて決められるため、単に国王の独断で決まるのではないとされた。また、ムフティーの決定権や政治・社会への影響⼒について質問があった。   (CISMORリサーチアシスタント 藤本憲正)
※英語講演・逐次通訳あり
※入場無料・事前申込不要
【主催】同志社大学 一神教学際研究センター (CISMOR)
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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