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ヘブライ語文化の復興 現代ユダヤ教における意義・日本文化との関係

公開講演会

第6回ユダヤ学会議 

ヘブライ語文化の復興 現代ユダヤ教における意義・日本文化との関係

  • The Hebrew Culture- A World of Words and Journeys1
日時: 2012年10月06日(土)13:00-15:00
2012年10月07日(日)13:30-15:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階チャペル
同志社大学今出川キャンパスクラーク記念館チャペル
講師: アブラハム. B. イェホシュア(イスラエル人・作家)
ニッツァ・ベンードヴ(ハイファ大学教授)
要旨:
■“Jewish Identity from Myth to History(イスラエルのアイデンティティ―:神話から歴史へ)”
アブラハム. B. イェホシュア(イスラエル人・作家)
 アブラハム B. イェホシュア⽒の講演は、⽂学的な視⾓からユダヤ⼈のアイデンティティに関して広範に考察したものであった。
 イスラエルではシオニズム史の教授法に関して議論が交わされている。2000年以上にわたるユダヤ⼈のアイデンティティを⽀えてきた神話を破壊せずに歴史研究を⾏う事は可能か、という問いがハアレツ紙に掲載されている。アイデンティティには、歴史に依拠するものと神話に基づくものという⼆つの在り⽅が考えられる。ユダヤ思想家、ゲルショム・ショーレムは「シオニズムとは歴史への帰還である」と述べた。ユダヤ⼈の歴史はシオニズム以前にも存在していたため、彼の発⾔は奇妙なものである。だがユダヤ⼈は神話の中にこそ存在していたと⾔える。ロラン・バルトによると、神話とは「世界そのものではなく、世界がこうなりたいという理想を受け⼊れること」である。
 ギリシアでは、神話は神(々)との関係を通して⼈間と世界の出来事を説明しようとする事であり、真実そのものではない。神話には歴史的真実を超越する場合と、現実ではない想像したものを指す場合の正反対の意味があり、神話が宗教との繋がりを持つ所以である(例:イエスの磔刑)。
 ユダヤ⼈は⺠族よりも宗教的なものへの帰属意識の⽅が強く、地理的に隔たった環境においても神話を通してアイデンティティが共有された。神話はスーパー・ストーリーの役割を担う場合がある。紀元前580年、第⼀神殿がバビロニアによって破壊され、紀元後70年に第⼆神殿がローマにより破壊された。⼆つの事件の間には600年という時間的隔たりがあり、神殿崩壊に⾄る政治的状況も全く異なるものであった。元来、神殿崩壊を嘆く儀式が個別に⾏われていたが、後に⼀つの祭⽇となった。もはや歴史的定義ではなく、「崩壊」という概念が⼆つの出来事を結びつけ神話として記憶を新しくする例である。
 ⼆例⽬は、イェシバー(ユダヤ教神学校)の学徒によるマイモニデスの受容の仕⽅である。彼らはマイモニデスの⽂書に関する豊富な知識を有する⼀⽅、彼の思想に影響を与えた背景(アリストテレス、イスラーム等)に関する歴史的な知識は乏しい。これも⼀種の神話となっている例である。
 神話により、ユダヤ⼈は⾃らの境遇に左右されずアイデンティティを保つ事ができた。ユダヤ⼈は常にエジプトを脱出した⺠族として⾃分たちを理解してきた。出エジプトの出来事が史実であるかどうかは重要ではない。また、メシアの来臨時、キリスト教の救済はそれぞれの地で達成されると考えられるが、ユダヤ教の贖いは祖国(イスラエルの地)でなされると考えられている。だが祖国の概念⾃体が神話的なものであった。
 神話に依拠するアイデンティティはむしろマイナス⾯で強⼒に作⽤した。歴史(⼟地)に依拠するアイデンティティに基づかなかったため、ユダヤ⼈は世界中を放浪する存在として理解されるようになり、その存在⾃体が神話化するという⼤変危険なものとなった。約三分の⼀のユダヤ⼈がナチスにより犠牲となったが、ナチス⾃体が神話的アイデンティティに依拠していた。だからこそ、シオニズムは歴史への帰還だと⾔える。
 講演の後半、イェホシュア⽒はユダヤ⼈が⾃らの歴史⼩説を記述することは記録の少なさ故に困難な作業である事を指摘した。⽂学を含む芸術は歴史を再度描く事であると述べ、歴史を覆い隠すことがある神話に対して⽴ち向かう必要がある、と作家としての⾃らの使命について語った。   


■"The Hebrew Culture: A World of Words and Journeys (ヘブライ文化:言葉と遍歴の世界)"
ニッツァ・ベンードヴ(ハイファ大学教授)
 2⽇⽬に⾏なわれた講演において、ニッツァ・ベン-ドヴ教授は、ヘブライ⽂化の形成や特徴がヘブライ語およびユダヤ⼈を取り巻く歴史状況に依拠していることを検証した。
 ヘブライ⽂化の歴史は神の⾔葉の指⽰と共に始まったと考えられる。また⾔語の担い⼿が「放浪の旅」をするという点がヘブライ⽂化の特徴である。ユダヤ⼈の⽂学は常にその⼟地の影響を受けてきた。ディアスポラにおいて、ユダヤ⼈はユダヤ・アラビア語、ラディーノ、イディッシュなどの⽅⾔を⽣み出したように、⼝語としてはそれぞれの⼟地の⾔語を改良していった。聖なる⾔語としてのヘブライ語は書物の中でのみ存在した。ユダヤ史家、シモン・ドゥブノフは世界に遍在するユダヤ⼈の状況、また永遠の⺠であることを表すものとして、「アム・オーラム(世界/永遠の⺠)」(ヘブライ語:Am Olam)という⾔葉を紹介した。中世のスペインではユダヤ・アラビア語で多くの哲学的、宗教的書物が⽣み出された⼀⽅、詩に関しては全てヘブライ語で記されていた。その後、イタリアのヘブライ詩が啓蒙主義に影響を与え、18世紀末、ドイツの啓蒙主義を通して、19世紀初頭のオーストリア、ロシアでヘブライ⽂化が繁栄した。ここに現代ヘブライ⽂学の礎が築かれた。⽂学者ベンジャミン・ハルシャヴによると、ユダヤ⼈は「死んだ⾔語」(⽂語としてのヘブライ語)を保存させてきたため、共通のアイデンティティを喪失する事はなかった。ディアスポラ的な考え⽅の特徴は、特定の⼟地、国、⾔語に愛着を持たない事である。しかし⼀部のユダヤ⼈の中で現世的な⽂化また国への憧れを抱く者が現れ、その表出としてヘブライ語が再度⽤いられ始めた。世俗的動機から⽣じた近代ヘブライ⽂学においてヘブライ語は、宗教的書物であるタルムードを元に復元された。1853年、初の近代ヘブライ⽂学として、アブラハム・マプーの“The Love of Zion”が出版された。これは聖書の話を断⽚的に収集したものであり、⼝語としてのヘブライ語は未だ⽤いられていなかった。
 ヘブライ語による散⽂を初めて発表したのは、シャローム・ジェイコブ・アブラモヴィッツであった。“Shem and Japheth on the Train”という⼩説は1890年に執筆された。出版当時、まだヘブライ語でTrainに相当する⾔葉は存在せず、後にヘブライ語でTrainは“rakevet”と呼ばれる事になる。⼩説の中で、列⾞は国外追放されたユダヤ⼈を象徴するものとして⽤いられた。列⾞という新たな交通⼿段は魅⼒的なものであり、放浪の⺠を描くうえで効果的なモチーフであった。ユダヤ⽂学において列⾞、駅というモチーフは出会いと別れ、移動の象徴として多⽤されるようになった。その他、数百万⼈のユダヤ⼈を死へともたらしたホロコーストの象徴としても間接的に⽤いられた。他⽅、次世代のA. B. イェホシュアは、列⾞に新たな意味を付加した。彼の作品は1948年に建国されたイスラエルの存在を疑わないサブラ世代の縮図とも⾔える。ある⼭に囲まれた⼟地に夜⾏列⾞が通過するという話は、放浪するユダヤ⼈から新たな世代の幕開けを⽰唆したものである。
 最後に、バベルの塔の話に出てくる「⼀つの⾔語」(創世記11:6-8)とは、おそらくヘブライ語だったと考えられる。もし神が⼀つの⾔語の使⽤を恐れていなければ、今⽇の世界はヘブライ語が⼈類の唯⼀の⾔語となったのではないか。   (同志社⼤学神学研究科博⼠後期課程 ⼤岩根安⾥)
 ヘブライ語はその長い歴史の中で、ユダヤ人特有の言語であり、彼らの文化、知識、歴史体験を口伝や書かれた形のテキストで表現する手段であった。この120年の間にヘブライ語は高次の文化、文学のための言語としての役割を維持しつつ、日常の生活言語として再登場し、イスラエル国家や他の場所で、ユダヤ人や他の人々の現代文化の ツールとなっている。その根源は、何千年も前の聖書時代に遡る。
本年のユダヤ学会議の目的は、「世俗的」言語としてのヘブライ語がヘブライ文学に果たした貢献と、ヘブライ文学と非ヘブライ語文学、中でも日本文学との関係を、翻訳、言語学研究、総合影響などを通して考察することである。

10/5(金) 映画上映会
 "The Human Resources Manager"
(ヘブライ語音声・英語字幕、A.B.イェホシュア原作、2010年イスラエル)
※上映前に、三宅良美教授(秋田大学)によるミニレクチャー「語ること、語らないこと:イスラエル映画・日本映画」があります。

10/6(土) 公開講演会
 "Jewish Identity from Myth to History
(イスラエルのアイデンティティ―:神話から歴史へ)"
  【講師】 アブラハム B. イェホシュア(イスラエル人作家) 

10/7(日) 公開講演会
 "The Hebrew Culture: A World of Words and Journeys
(ヘブライ文化:言葉と遍歴の世界)"
  【講師】 ニッツァ・ベン-ドヴ(ハイファ大学教授)

※英語講演:逐次通訳あり(10/5を除く)
※入場無料・事前申込不要
【主催】一神教学際研究センター、同志社大学神学部・神学研究科

【後援】駐日イスラエル大使館
10/6 公開講演会プログラム
10/7 公開講演会プログラム

10/6講演会映像

10/7 講演会映像