同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

> 研究プロジェクト >

エコロジー経済学とキリスト教神学との対話

研究プロジェクト

2014年度

エコロジー経済学とキリスト教神学との対話

日時: 2014年07月12日(土)14:00〜17:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス 待辰館1階CISMOR会議室
発表者:
  • 和田 喜彦 (同志社大学経済学部教授)
コメンテーター:
  • 小原 克博 (同志社大学神学部教授、CISMORセンター長)
要旨:
本研究会は「エコロジー経済学とキリスト教神学との対話」と題して、同志社大学経済学部教授の和田喜彦氏による発表がなされた。
 和田氏はエコロジー経済学を「永続可能性の達成を目指し、生態系全体の循環の一部としての人間経済活動を学際的に研究する学問」と定義し、そしてWilliam E. Reesの考えを元に、それをまずモデルという点から説明する。それによれば、人間は現実を認識するためにモデルを必要とするが、モデルと現実は別物であるため両者の乖離が生じることがある。そして誤ったモデルは様々な問題を引き起こすのであり、その一つが環境問題である。つまり環境問題の根源的原因はモデルが現実を正確に表していないことにあると言える。
 エコロジー経済学のモデルは、現在主流の経済学のモデルとは異なり、資源の有限性、市場や科学・技術の限界の認識、環境収容力の範囲内への経済活動の制限のほか、ホワイトヘッドのプロセス哲学の影響を受けたJohn B. Cobb Jr.のプロセス神学の考え方を色濃く反映した、全体論、有機体論的世界観、コミュニティーの中の人間、経済規模の拡大よりも分配の公平さの重視などを特徴とする。
 そしてCobbは経済学を含む学問を有機体論的世界観から再検討している。第一の問題点は専門分野の孤立化であり、これが全体状況に対する無責任を生み出していると考えらえる。その克服のためには、ライフサイクル分析(LCA)の拡張、新技術評価体制の構築、また無責任主義への対応として環境影響評価の公開、評価者・政策決定者の氏名公表、出資者・融資者の結果責任の追求、内部告発者の保護、生存基盤の破壊に対するゼロトレランスの姿勢などが必要だろう。第二は具体性と抽象を置き違える誤りであり、例えばGDPの増大が追求されるが、その量的増大が必ずしも生活の質の向上に向かうとは限らない。そして第三に経済至上主義から地球至上主義への転換が求められる。その一つとして、経済成長の負の側面を含めたより具体的な内容を反映可能なISEW(持続可能な経済と福祉指標)やGPI(真の進歩指数)などの指数の改良と適用がある。
 またReesとWackernagelらによって開発されたのが、エコロジカル・フットプリント指標である。持続可能性とは自然の能力の範囲内でよりよい生き方を送ることを意味し、自然の能力を超えないことが第一条件となるが、この指標は人類の経済活動を維持するために必要な生態系に対する需要量を土地面積で示すものである。それによると地球上の生産可能な土地水域面積は一人当たり1.8グローバル・ヘクタール(gha)であるが、全世界での土地水域への需要は一人当たり2.6ghaとなっており、需要過多でバランスが取れていない状態にある。また各国別ではアメリカ人の消費生活は1人当たり9.4gha、日本人は4.9ghaが必要となっており、今後は地球の環境収容力の範囲内でやりくりできる経済を実現することが求められると指摘し、和田氏は発表を締めくくった。その後、参加者との質疑応答の時間が持たれ、活発な議論が行われた。 (CISMOR特別研究員 朝香知己)
研究会プログラム20140712