同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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キリスト教神学から見たイスラームの教義とムスリム像の変遷(アメリカ)

研究

キリスト教神学から見たイスラームの教義とムスリム像の変遷(アメリカ)

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米国は9.11同時多発テロ事件以降、国内外のイスラームとの向き合い方にもっとも苦慮してきた国の一つである。それゆえ、キリスト教とイスラームとの共存可能性をめぐる研究は膨大なものがある。イスラモフォビアの分析とその克服を目指す研究をハートフォード神学校と連携して行う。

ハートフォード神学校 

 

研究会

国際ワークショップ

"Islamic Law and Ethics in a Multi-Religious World”

日時:2013年10月10日~11日
会場:ハートフォード・セミナリー(コネチカット、アメリカ)

国際ワークショップ報告書『Islamic Law and Ethics in a Multi-Religious World(多宗教世界におけるイスラームの法と倫理)』

 

研究ノート

派遣者:浜本一典(同志社大学 神学研究科後期課程)

「シャリーアの目的」論における啓示と理性の相克  キリスト教とイスラームの対話をめぐる議論の中で、両者が自然法思想を共有しており、それが対話の基盤となり得るとの指摘がなされている。この見解によれば、どちらの伝統においても、人間の従うべき法は創造主が定めた世界の秩序の一部で、理性による認識が可能であり、それゆえ、社会正義や人権といった人間の生活の基本に関わる問題において両者は協力できるのではないかという。

   キリスト教的自然法論者としてはトマス・アクィナス(1274年没)が代表的であり、上の見解には彼の法思想の影響が強く感じられる。しかし、同様の自然法思想をイスラーム側にも見出し得るかどうかは疑問である。イスラームにおいては伝統的に、人間がどのように振る舞うべきかは神の啓示を通して知られ、理性は啓示を理解するための道具にすぎないとの見方が支配的だったからである。近年、イスラームにも自然法思想の伝統があったことを記述した研究書、あるいはシャリーアの解釈の際に自然法思想を取り入れるべきことを説く著作も見られるようになったが、それらは、自然法論として徹底したものではなく、啓示法に対する遠慮の混じったものであるように思われる。

   ところで、イスラームにおける自然法思想として紹介されているものの一つに「シャリーアの目的」論がある。これは啓示の字義よりもその背後の目的に重点を置く法理論であり、字義重視の法理論に比べれば、理性にいくぶん大きな役割が与えられている。だが、この理論においても理性が啓示より上位に置かれたわけではなかった。今日でもしばしば引用される五つの目的(宗教、生命、理性、子孫、財産)を定式化したのはガザーリー(1111年没)であるが、彼がこの理論に頼るのは特殊なケースに限られていた。これを法理論の根幹に据えて精緻化したシャーティビー(1388年没)でさえ、その主たる意図は啓示法がいかに合目的的にできているかを説明することにあったといえよう。例外的にトゥーフィー(1316年没)は一定の場合に啓示よりも理性を優先すべきことを大胆に唱えたが、前近代においては異端視されていた。

   だが近代以降、トゥーフィーの学説は見直され、次第に力を増しつつある。また、シャリーアの目的は啓示のみならず自然や歴史からも知られるとの主張も生まれている。これらの動きはシャリーアの全面的な自然法化を意味するわけではないが、理性の役割の拡大を志向しており、その結果、他宗教との対話をいくらか容易にするかもしれない。
 

<参考文献>
Russel Powell, "Toward Reconciliation in the Middle East: A Framework for Christian-Muslim Dialogue Using Natural Law Tradition," Loyola University Chicago International Law Review, vol.2:1, Chicago, 2004-2005.
Thomas Aquinas, Summa Theologica, English tr., 5vols., New York, 1981.
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Anver M. Emon, Islamic Natural Law Theories, Oxford, 2010.
Mohammd Hashim Kamali, Maqāṣid al-Sharī‘ah Made Simple, London, 1429/2008.
Tariq Ramadan, Radical Reform: Islamic Ethics and Liberation, Oxford, 2009.
Abū Ḥāmid al-Ghazālī, al-Mustaṣfā min ‘Ilm al-Uṣūl, 2vols., Boulaq, 1322h.
Abū Isḥāq al-Shāṭibī, al-Muwāfaqāt fī Uṣūl al-Sharī‘ah, Beirut, 1425/2004.
Najm al-Dīn Ṭūfī, Sharḥ al-Arba‘īn al-Nawawiyyah, Cairo, 1430/2009.
Rashīd Riḍā (ed.), Al-Manār, 35vols., Cairo, 1906.
Yūsuf al-Qaraḍāwī, Dirāsah fī Fiqh Maqāṣid al-Sharī‘ah, Cairo, 2008.