公開講演会
イエス時代のシナゴーグの機能と役割―ガリラヤ地方テル・レヘシュ遺跡の新発見シナゴーグの意義―
The Role and Function of the Synagogue in the Late Period of the Second Temple Period: An Impact of the Discovery of a Synagogue at Tel Rekhesh in the Galilee
日時: |
2017年02月02日(木)16:30-18:00 |
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場所: |
同志社大学今出川キャンパス 至誠館1階 S2教室 (京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分) |
講師: | モルディハイ・アヴィアム(キネレット・ガリラヤ考古学研究所) |
要旨: | |
下ガリラヤの東部にある丘陵地域にあるテル・レヘシュ遺跡は、ヨシュア記で言及されているアナハラトにあたると考えられている。2006年から天理大学、立教大学、東京大学がこの遺跡の発掘に従事しており、現在では桑原久男先生(天理大学文学部教授)が発掘チームを率いている。2016年夏に行われた発掘の結果、帝政ローマの最初期の第二神殿時代に建てられたと思われるシナゴーグが見つかった。イエスが活動していた時代のシナゴーグがガリラヤ地方で見つかったのは、ミグダルで発見されたシナゴーグを除くと初めてのことであるため、本発見はイスラエルのみならず全世界で報道された。本講演では、上記発掘チームのイスラエル側の代表であるモルディハイ・アヴィアム氏が、テル・レヘシュのシナゴーグの発見の意義や同時代のシナゴーグとの関連について検証した。 本発表で主に扱うテル・レヘシュのシナゴーグと同時代である、第二神殿時代のシナゴーグに関する史料上の言及は、新約聖書の中で確認できる。これらの言及は、シナゴーグの中でユダヤ人がどのようなことをしていたのかを知る上で非常に重要だとういう。この他にも、フラウィウス・ヨセフスやアレクサンドリアのフィロンの史料、ディアスポラのユダヤ人による奉献碑文や、二十世紀初頭にエルサレムで発見されたテオドトス碑文(前一世紀)などから、古代におけるシナゴーグの実態を知ることができる。 考古学上のシナゴーグに話を移すと、マサダのシナゴーグが現在知られている中では最も有名と言えよう。この他にもシナゴーグの遺構は、ヘロデオン(既存の建物にベンチを付け加えてシナゴーグに変化させている)、ムラ(トーラーの巻物を置いていたであろう壁龕があるシナゴーグが発見された)、モディン(建設年代が三段階あるシナゴーグ)、キリヤット・セフェル(十軒の家々とシナゴーグからなる村全体が発掘されている。小さな共同体にもシナゴーグがあったということを伝える貴重な事例)、ミグダル(テル・レヘシュのシナゴーグが発見されるまで、第二神殿時代のシナゴーグとしては唯一の例であった)などから見つかっている。 さて、日本隊が発見したテル・レヘシュのシナゴーグは、イエスが活動していた時代のシナゴーグとしては二例目である。この遺跡は、村とするには小さすぎる一方で、秩序だった空間構成を持つことから、農業に関連した小規模な共同体であったのではないかとアヴィアム氏は考える。テル・レヘシュからは、フレスコ画の断片、漆喰細工の他、調理用土器、ランプ、トラヤヌス帝期のコイン、石灰岩製容器(ユダヤ人が居住していたことを示す証拠)などが見つかっており、これらの遺物をもとに本遺構の年代は後一世紀頃であるとされ、その後二世紀半ばにはこの居住地域は放棄されたと判明している。 テル・レヘシュのシナゴーグは、おそらく二本の柱によって支えられた屋根構造を持つ建造物で、壁沿いにベンチが配されていた。その空間構成は、二年前にディアブ村(ベンヤミン近郊)で発掘された非常に小さなシナゴーグに似通っていることから、農場に関連した小規模な私的シナゴーグがイエス時代に新たに出現したことを示唆する例として解釈できるのではないかとアヴィアム氏は指摘した。その上で、このような小さな共同体における小さなシナゴーグは、イエス時代の社会構造を読み解く鍵となるのではないかとの見解を示した。 2017年夏に行われるテル・レヘシュのシナゴーグ発掘により、このシナゴーグの全貌が明らかになる。イエスが生きた時代の社会を再構成する上で、テル・レヘシュでの研究成果は重要な知見を与えるであろうと述べ、氏は講演を締めくくった。 (CISMOR特別研究員 川本悠紀子) |
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※入場無料・事前申込不要 【主催】同志社大学一神教学際研究センター 【共催】科学研究費研究助成金基盤研究A「ユダヤ・イスラーム宗教共同体の起源と特性に関する文明的研究」(代表=市川裕 東京大学大学院人文社会系研究科教授) 同志社大学神学部・神学研究科 |
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