同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

> 公開講演会 >

グローバル化とアメリカの覇権−そして、日米関係のゆくえ

公開講演会

第2プロジェクト 公開講演会

グローバル化とアメリカの覇権−そして、日米関係のゆくえ

日時: 2010年05月08日(土)13:00 - 15:00
場所: 同志社大学新町キャンパス 臨光館2F R201教室
講師: 五十嵐 武士 (桜美林大学教授)
要旨:
 近現代史のなかで、日本はアメリカによって三度ほど国家的な危機に直面させられている。氏は、その事実を確認することから講演を始めた。一度目は、ペリーの来航によって開国を余儀なくされ、その後は国民国家の形成という課題を負わされた。二度目は、第二次世界大戦の敗戦によって占領され、その後は民主主義の確立を迫られて、まもなく冷戦に組み込まれていった。三度目は、グローバル化によって市場開放を求められ、現在の世界経済危機に巻き込まれることになった。なぜ日本はこれまで、アメリカの影響を大きく受けてきたのか、あるいは、なぜアメリカは大きな影響力をもつことができたのだろうか。この点で現在重要なのが、「グローバル化」である。
 グローバル化とは、ヒト・モノ・カネ・情報などが、国境を越えて大量かつ迅速に動くようになる事態をさす。従来も帝国主義による領土的な拡大があったが、それと現在のグローバル化は同じものではない。異なるのは、個人や企業も中心になって活動する、という点である。移民で構成されている国は、元来そういう性格をもっているが、現在それを世界中に広める役割をしているのがアメリカにほかならない。それはなぜか。
 ヒトの面では、もともと移民国家であるうえに、1965年に移民制限を緩和したことによってアジアや中南米からも移民が大量に押し寄せ、さらに多様性が増している。モノの面では、そもそも貿易によって発展した国であり、特に19世紀末からはヨーロッパにたいしても優位に立った。カネの側面でも、第一次世界大戦後は債権国になり、それ以降ニューヨークのウォール街が、ロンドンのシティと肩を並べて国際金融の中心地になっている。
 情報の面では、1990年代のIT革命によって情報のグローバル化を急速に加速した。アメリカは、本来文明の中心という古典的な「帝国」の性格をもっており、大衆文化や消費文化といった現代文明のライフスタイルを創出して、国際的に発信してきた。アメリカの国際的な主導権が、そうしたソフトパワーにも由来している点は特に注意を要する。
 実際に、第二次世界大戦後、アメリカは政治的に国際連合を組織し、経済的にはブレトンウッズ体制をつくるのに主導権を発揮した。次いで冷戦時代には、西側陣営内のなかで、民主主義を安定化させ経済発展も実現して相互依存をもたらし、冷戦が終結してからは、その影響が東側にも広がってグローバル化を振興したのである。
しかしながら、80年代からは国際競争が激化し、世界経済におけるアメリカの優位も動揺し始めた。また、アメリカのライフスタイルに反発するイスラーム世界からは、過激派が生まれ、テロに悩まされるようになった。21世紀に入ってからは、イラク戦争や世界金融恐慌など、混乱の度合いが加速している。それらの混乱を受けて誕生したオバマ政権は、レーガン政権以来の方針を転換して、軍事力や経済力よりも、核問題や地球温暖化といったグローバル・イッシューにおいて主導権を発揮しようとしている。
 こうした冷戦終結以降の変化を受けて、日米安保も再検討する必要が出てきている。しかも、その場合には、中国が大きく台頭して、アジアの勢力図が大きく変わりつつある情勢も併せて考えなければならない。氏は、鳩山前首相が言った「東アジア共同体」は構想として悪くなく、普天間問題など目の前の問題はあるにしろ、二、三十年先の日米関係の課題として目標に据えて準備していかなければならない、と述べて講演を終えた。

(CISMOR特別研究員 藤本 龍児)
講演会プログラム
配布資料